- ナノ -


「……ナツキ!行くぞ!」

「え、あぁ、うん!」

クリスに肩を叩かれて、菜月は漸く思考の海から帰還した。
今はこんな事考えてる暇じゃない、と頭を振って意識をはっきりさせる。

建物の裏口から出ると、またもやマジニの襲撃が。

「うっそぉおお!!待って待って!!駄目だってそりゃぁあぁあああ!!!」

固定機銃を撃てる限り撃ちつづけるマジニに菜月は涙をちょちょぎらせながら、手ごろな物陰に隠れる。
きぃんきぃん、と壁に当たって跳弾する音が煩い。

ラピッド・ファイアが止まる瞬間を狙って、そちらを見る。

う、撃てねぇ……。

装甲板ががっちりと取り付けられていて、そんじょそこらの銃じゃ貫けないし、
機銃を扱っているマジニの姿は装甲板で隠されている。
少しでも見えていたら、撃てたのだけど……。

「手榴弾で殺るか……」

クリスが口でピンを抜き手榴弾を投げつけた。

ドォン、と爆発音が響き機銃の音は聞こえなくなった。
そろぉ〜っと盗み見れば、機銃が煤けて使い物にならなくなっている。
うまく当てれたようだ。

「行くぞ!」

「らじゃ!」

クリスの後を小走りで追いかける。
赤い色のはしごを上り、飛び降り(捻挫しそうになったり)しながら、先に進む。

へこたれそうになったのは、ダイナマイトの雨を降らされたときだ。
ところどころで爆発されたのは、たまったもんじゃない。
何度死にそうになった事か。

目の前にダイナマイトが落ちてきたときは、もう駄目だと思った。
崖の下へ蹴り飛ばして、何とかなったけど……勘弁して欲しい……。


「よい、しょっと!」

2メートルくらいの段差を飛び降りる。
掛け声が年寄り臭いとか言うんじゃねぇっ!!!

「ん……?」

嫌な予感がして菜月は身震いをした。
クリスとシェバも何かを感じ取ったのか、辺りを見回す。

バタバタバタ……と蝙蝠がせわしなく飛び回る音が不安を掻き立てる。

唯一の先へと進む道から一台のトラックが横滑りをして俺たちの目の前で止まった。
トラックの中から酷く気持ちの悪い感じがした。

その時、独りでにトラックの後ろの扉が開いた。
それと同時に背筋に悪寒が走る。

『ぎぁあぁああ!!!』

奇声を発し、其処から飛び出したのは蝙蝠のようなバケモノ。

「何だこいつは!?」

蝙蝠のようなバケモノ――ポポカリムは4枚の羽を大きく動かしながら飛来する。
ポポカリムは俺たちのいる場所に着地すると、硬質な爪で地面を引き裂いた。

「新手のB.O.W.!?アーヴィングの差し金ね!」

「はぁっ!!?」

あんのデコッパチぃいい!!いらんもん置いていきやがってぇええ!!
ポポカリムから目を離さずに、菜月は心の中で悪態をついた。

見るからに硬そうな背中に、ためしに攻撃してみたが案の定はじかれてしまった。

「うっわ、っとと!」

繰り出された引っかき攻撃を横に避け、走って距離をとる。
あんなかってぇのどうやって倒せってんだ!!

「後ろよ!あの赤い部分を攻撃するのよ!」

「分かった!!」

後ろ、というかお腹の部分だけが硬い殻に覆われていない。
赤い身が出っ放しだ。

ハンドガンのグリップを握り締め、菜月はポポカリムの後ろに回りこんだ。
気持ちの悪い身に向けてハンドガンをぶっ放す。

『ぎぃぁぁあ!!』

効いたのか、ポポカリムが悲鳴をあげた。だが、倒れるまではいかない。
菜月は何度もハンドガンの引き金を引きダメージを与える。

ポポカリムの正面では、クリスとシェバが気を引いて振り向かせないようにしてくれている。

十数発撃ったところで、ポポカリムは一段と大きな悲鳴を上げると懇親の力を込めて、飛び上がった。
そして、大きく空中を旋回するとこちらに向かって飛んでくる。

――突進してくるつもりかっ!!

ポポカリムのしようとしていることに気がついた俺はハンドガンを撃つ。

タァン、タァン、タァン……――

銃弾は見事にポポカリムを貫いた。
飛ぶ力も無くしたポポカリムはそのままトラックに墜落し、トラックごと崖の下へと落ちていった。

ドォン、とトラックが遥か下のほうで爆発し、ポポカリムはその爆破に巻き込まれ見えなくなった。

「クリス、シェバこっちだ!」

トラックが一台こちらに向かってきた。
また敵か、と危惧したがどうやら違ったみたいだ。
クリスやシェバとよく似た色と形をした服を着ている男の人が此方に手を振っている。
菜月は緊張を解き、身体を脱力させて小さく息を吐き出し、クリスと一緒にそのトラックに乗り込んだ。

俺たちがトラックに乗り込むとすぐさま発進した。




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