- ナノ -


エレベーターに乗り、地上へと出た。
漸く地下から出ることが出来た俺は、ぐぐっと大きく伸びをした。

埃っぽい地下から出たせいか、随分と空気がおいしく感じる。
深呼吸をして、肺の中の空気を入れ替えた。

「ほら、行くぞ」

「はぁーい」

ちょうど近くにあった家の階段を駆け上がる。
扉の前に二人が立ち並び、3、2、1、とタイミングを合わせて飛び込んだ。
その後を俺が続いてはいる。

「動くなっ!!」

「クソッ!」

クリスに銃を向けられ、白いスーツを着た男が悪態をついた。
俺も一緒にハンドガンを構えて男を睨む。

人間を撃つのは、すごく気が引けるけれどやらなきゃいけないんだ。
マジニを増やさないためには、絶対。

「アーヴィングね!?」

シェバが銃を構え、叫んだ。

「さぁーてな?誰だったっけな?」

銃をこちらに向けて、惚けるアーヴィング。
冗談のつもり!とシェバが睨みつけた。

「卑怯なテロリストらしいわね?」

「あんなのと一緒にすんな。俺はなビジネスマンなんだよ」

にやり、と卑劣な笑みを浮かべながら言った。
ビジネスマン、だったら何してもいいとか思ってるのか?やっていいことと悪い事がある。
テロリスト以下のアーヴィングに菜月は睨みをさらに鋭くした。

「銃を捨てろ!!」

「なめんじゃねぇ、お前らこそ銃を捨てろ!」

「お前のほうが銃捨てろ!!」

自分のおかれた状況が分かっていないアーヴィングにムカついた俺はハンドガンをちらつかせながら叫んだ。
アーヴィングは菜月のほうを見た。

「ん?お前は……ハッハハ、お前が、なぁ?」

「なんだよ!?撃つぞ!」

菜月を見た瞬間さもおかしそうに笑い出したアーヴィング。
何故初対面の男に笑われなければいけないのだ。不機嫌そうに顔をゆがめた。

ぐ、と人差し指に力を込めた瞬間――

男の足元から煙がもくもくと立ち上がる。

「う、わっ!」

思わず引き金を引いてしまって、窓ガラスがガシャンと割れる音がする。
ついでに煙を思いっきり吸ってしまって、咽る。

咳き込んでいると、右手の窓ガラスから誰かが飛び込んできた。
それが誰か煙に巻かれて分からない。


その誰かはアーヴィングを連れ、窓から飛び出していった。

「あばよ!」

それだけを残して、アーヴィングはどこかに去ってしまった。
煙が消えたところで、クリスとシェバが慌てて窓の外を見たが姿形も其処にはなかった。

「クソ!……逃したか」

「仲間がいたなんて!」

「……奴はここでいったい何してたんだ……」

机の上においてある書類にクリスは目を通し始めた。
シェバもその書類を脇から覗き込んでいる。

俺は――あいつの言った言葉が気になっていた。

『お前は……ハッハハ、お前が、なぁ?』

俺、は……何なんだ……?
俺が、いったい……何?

握り締めた手が、小さく震えた。



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