「「ナツキッ!!」」
かなり焦った二人の声に菜月は顔を上げた。
「……んぎゃぁあぁあああ!!!こっちにくるなぁああぁああ!!!」
キュィイィンッ!
今まさに振り下ろされんばかりに上げられたチェーンソーに絶叫した。じたばたと足を動かし何とか立ち上がろうとするが、情けなくも腰が抜けてしまっている。なんて役に立たない足なんだ、と内心で自分自身にキレながら菜月は未だ振り上げられたままのチェーンソーに冷や汗をかく。
振り下ろす時間は十二分にあったはずだ。それなのに、菜月はまだ真っ二つにはなっていない。
「……は?」
不思議なことにチェーンソーマジニは振り上げたチェーンソーを目の前の菜月に振り下ろさず、後ろにいたクリスとシェバに向かった。てっきり、こっちに振り下ろされるとばかり思っていた菜月は素っ頓狂な声を上げる。
気づけばチェーンソーマジニはおろか、普通のマジニまで菜月に近づくことはなかった。菜月はそのことに僅かながら疑問を抱きつつも、襲われない分にはまあいいかと記憶の片隅に捨て置いた。
菜月は気持ちを無理やり落ち着け、ハンドガンを手に持つとおもむろに立ち上がった。未だシェバさんとクリスさんはチェーンソーマジニを相手に四苦八苦している。ドラム缶を爆発させたりしているが他のマジニとは違い、チェーンソーマジニはタフなようで爆風に巻き込まれても全くびくともしていないようだ。
自分が何故襲われなかったのかは気になるが、今はそれどころではない。
チェーンソーマジニの頭部に向けてハンドガンを構える。震える体が邪魔をして、うまく狙うことが出来ない。
「しっかりしろ!俺!!」
頼りない自分を勇気付けて、チェーンソーマジニを睨みつける。そして、息を少しだけ止めてトリガーを引いた。
パァン!
流れ弾が二人に当たったらどうしよう、とか、当たらなかったらどうしよう、なんて心配は杞憂で終わったようだ。 乾いた破裂音が響き、菜月が放った弾は見事にチェーンソーマジニの脳天を貫いた。
雑魚と同じように頭がはじけ飛ぶ、なんてことはなかったがチェーンソーマジニはガクッと膝をつき、力なく前のめりになって倒れ伏した。
「、……はぁ」
倒れたことを目視した俺は、地面に座り込んだ。正直、当たらないと思っていたから、びっくりだ。
「大丈夫か?」
「あぁ、はい、なんとか。クリスさんは大丈夫ですか?」
「あぁ、ナツキのおかげでな」
差し出されたクリスさんの手を掴んで、菜月は立ち上がった。 シェバさんのほうを見れば、チェーンソーマジニの腰に掛かっていた鍵を取っていた。
よくもまぁ、あんな奴の腰についてる鍵なんて取れるものだ。マジニはまだヒト形だからいいけどチェーンソーマジニは無理だ。 ……だって、なんか、起き上がってきそうなんだもん。
「……そういえば、"さん"なんてつけなくていいぞ」
「はい?……呼捨てでいいんですか?」
「勿論だ、その敬語も……堅苦しいのは嫌いだ」
クリスさん――あらため、クリスはにかっと笑った。菜月もその笑顔に釣られて微笑んだ。
それはさておき、こんなところでいつまでも突っ立っているわけにはいけないので(チェーンソーマジニが起き上がってきそうだし) 菜月たちは先ほど、チェーンソーマジニが出てきたところに進んだ。チェーンソーで無茶苦茶に開けられた扉を蹴破り、奥に進んだ。
prev ◎ next
|