「ナツキ！下がって！」

マシンガンを構えたシェバさんが触手の塊に向かって連射する。だが、触手の塊はひるむ様子がない。動きはそこまで早くはないが、周囲の物を破壊するその様子を見るに近づかれるのはかなり危険だ。

不幸なことに、脱出するための唯一の扉は閉まってしまっている。閉めた奴誰だよおお！！と叫ぼうが何しようが、とにかく目の前の奴を倒さなければどうにもならない。

「あ、これ……」

菜月の目に入ったのは赤い大きなガスボンベ。これを敵の近くで爆発させれば、結構な威力になるのではないだろうか？

菜月は壁に立て付けられているガスボンベを力いっぱい押して横倒しにした。後は触手の塊がここを通ればいい。

「シェバさん！クリスさん！こっち！！」

菜月の声を聞いた二人が、触手の塊を後ろに引きつれこちらに来た。

「何か案があるのか？」

「はい！」

じわりじわりと近づいてくる触手の塊に菜月は暴れる心臓を押さえつけて、初めて使うハンドガンを構えた。
菜月を見ていたクリスさんが何かいいたそうな顔をしていたが、気づかなかった。

触手の塊は通路を防いでいたガスボンベを持ち上げ、体内に取り込んだ。予想通りの展開だ。後はあのガスボンベを狙い打てばいい。自然と荒れそうになる呼吸を落ち着けて、しっかりと狙いを付け、引き金を引いた。

赤い閃光が視界を埋め尽くす。

地を揺るがすような爆音と爆風が此方にまで及んだ。顔を撫でる熱気に顔を庇う。
黒煙がはれ、触手の塊がいた所を確認するともうその場所には何もなかった。どうやら上手く倒せたようだ。胸を撫で下ろす。

「ナツキ！やるじゃない！」

すごいわ、とシェバさんにほめられて菜月は顔を赤らめる。
面と向かって褒められたことなんてあまりないから、なんだか恥ずかしい。

初めて引いた引き金は、菜月が思っていたほど重いものではなかった。
それは、簡単に人の命を奪ってしまう、って事なのだろうけれど。でも、自分の身を護るためならば、俺はこの銃を何度でも使って見せよう。怖くても……辛くても。

触手の塊を倒し、菜月たちは先ほどの扉の前に行く。もう邪魔するものはいない。ぎい、と軋んだ音を立てながら扉が開いた。

何もいないらしい。
奴らの嫌な気配は微塵にも感じない。

良かったと安堵し、奥にあったエレベーターに乗り、地上へとあがった。


地上につくなり、銃を構えたシェバさんとクリスさんが飛び出す。もしものときの為に、警戒は怠れないのだろう。菜月はワンテンポ置いて、エレベーターから降りた。

倉庫のようなその場所には、トラックが2台置いてある。トラックの中に何かを見つけたらしいクリスさんが通信で誰かと話していた。
その間、暇を持てあまして辺りを見渡す。

「……？」

ちらり、と目に入った監視カメラ。
ただのどこにでもある監視カメラのはずなのに、何故か気になった。

気になる、が高だか監視カメラだ、と自分に言い聞かせてそれから目をそらした。


「ちょっと待って！」


シェバさんの大声にびくりと菜月は肩を大きく震わせた。通信で何かあったらしい。が、俺には知る由もない。
機密事項を聞く気はない。聞いたら聞いたで面倒なことになる。

「無茶だわ！！」

「やはり隊員は使い捨て、か……」

「……どうかしたんですか？」

面倒ごとになる、とは思ったものの二人の表情を見ていると聞かずにはいられなかった。クリスさんとシェバさんの表情が暗いから。

「すまないな、もう少し辛抱してくれ」

ぽふ、と頭に手を乗せられた。自然と菜月の視線は下を向く。クリスの言葉を理解できないほど菜月はバカではない。

ようするに、まだ危ない目にあうかも知れない、って事か……。

「気にしないでください。俺、平気ですから……」

少し、怖いだけ……だから、大丈夫です。
そう笑えば、複雑そうな顔をしたクリスさんがいた。




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