- ナノ -





スミレはセフィロスと共にソルジャー指令室に顔を出していた。というのもソルジャー部門の統括・ラザードに挨拶をするためだ。本来ならもっと早くするべきだったのだが、ラザードも忙しく都合が合わず、こんなに遅くなってしまった。

「初めまして、ラザード統括。スミレ・草野です。これからよろしくお願いします」

少しばかり緊張しながら、指令室のデスクに着いているラザード統括に会釈する。艶やかな金髪を揺らしてラザードがメガネの奥の眼を柔和に細めた。

「君がスミレくんか。初めまして、ソルジャー部門統括のラザードだ。よろしく」

アイスブルーの瞳。どこかで見た色彩にああ、と思い出す。確かルーファウスと異母兄弟の設定だった。

「ソルジャークラス1st補佐を作る、なんてセフィロスが急に言い出すものだから驚いたよ」

ラザードはくつくつと笑いながら、部屋の片隅で腕を組んで立つセフィロスを見る。その視線を煩わしそうにセフィロスは顔を背けた。

「君の身の上はセフィロスから一通り聞いた。タークスにスパイと疑われて囚われていたとね」
「はい……」
「大変だったね……僕に出来ることであればいくらでも頼ってくれて構わない」
「ありがとうございます」

優しい労りの言葉にスミレはほっと安堵する。それから、とラザードが付け足し、デスクの引き出しから書類を取り出した。

「順序が前後してしまったけど……この雇用契約書と誓約書にサインを頼むよ」
「あ、はい。わかりました」

受け取った書類の内容に目を通す。なんてことはない守秘義務などの条項が並んでいるだけだ。それらをさらりと流し読みして、最後の署名欄に名前を記入してラザードに返却した。

「よし、これで君は晴れてソルジャークラス1st補佐だ。頑張ってくれたまえ」

スミレのサインを確認して、ラザードは書類に判子を押すとにっこりと微笑んだ。
補佐になったんだという実感をラザードの言葉でようやっと得る。気持ちが引き締まり、背筋が伸びた。

「これで用は済んだな」

今まで部屋の隅で黙っていたセフィロスがスミレの隣に歩みより、ラザードを一瞥した。肩をとんと叩かれて「行くぞ」と促される。スミレを待たずして歩き出すセフィロスに、スミレはあたふたとラザードに会釈をして指令室を後にした。


足早に歩いていたセフィロスに追い付いて、共にエレベーターに乗り込む。向かう先は勿論ソルジャーフロアだ。

「ラザードはああ言っていたが、しばらくは筋力トレーニングだ。ソルジャーとまではいわんが神羅兵レベルには動けるようになってもらわなければな」
「うげぇ……」

インドア極めていたスミレには一生縁がない筈だった"筋トレ"という単語に盛大に顔をしかめる。
ミジンコレベルの体力を軍人まで上げるなんて想像するだけで吐きそうだ。ランニング、腹筋、腕立て、屈筋──やりたくないもののオンパレード。今日だって一通りこなして全身はバキバキ。休憩を挟んでやっとセフィロスの組んだメニューを終えられたが、先行きは不安だ。

「何だ、その顔は……」
「あだっ!」

額を小突かれて、反射的に声を上げた。涙目になりながらセフィロスを見上げると、愉快そうに口元を緩める。

端麗な容姿も相まって、なにかと冷徹、無感動と思われがちなセフィロスだが、スミレが思っているよりもずっと人間味があった。勿論FF7CCでその事は知ってはいたが、それ以上にセフィロスはよく笑うし、親しみやすい。何ならツンツン尖りまくっているジェネシスの方が取っ付きづらいまである。

到着を知らせるアナウンスが鳴り、スミレとセフィロスはエレベーターを降りた。ウータイとの戦時中という事もあり、ソルジャーフロアは人が少ない。
本格的な掃討戦はまだ先らしいが、いずれ1stの三人が駆り出されると考えると憂鬱だ。人を殺さねばならないという事実、物語の始まり──ただただ何も起きないでくれと願うことしかできない。意味のない、ことだけれど。

「ねぇ、セフィロス。ここ数日ずっと私に着いていてくれてるけど、任務はないの?」
「アンジールとジェネシスに回してもらっているから気にするな」
「っていやいや、気にするよ!しかも、ジェネシスまで協力してくれてるの!?」

道理であまり二人に会わない訳だ。アンジールはともかくジェネシスまでも任務を請け負ってくれてるなんて意外すぎる。驚きすぎて思わず声が大きくなった。

「あああ……今度会ったらお礼言っとかなきゃ……」

1stにどれくらいの任務があるのか、まだスミレは知らないがきっと恐らく大変であろうことは伺える。

「律儀だな」
「そんなことない。何かしてもらったらお礼を言う。当たり前のことだよ……だから、セフィロスにも感謝してる」
「ふっ……気にするな」

そんな他愛ない話をしていたら、背後でエレベーターが開いて件の彼らが降りてきた。任務帰りのようで顔にはほんの少し疲れが見える。

「二人とも帰ってきたのか」
「ああ、今しがたな」

アンジールが答え、ジェネシスは無言のまま持っていた本を閉じた。

「あ、あの、二人とも!任務お疲れ様!私のせいで二人に負担が掛かってるって聞いて……」
「気にするな。俺たちが自主的に受け入れてやっているだけだ」
「ふん……任務が二、三増えたところで何も変わらん」

ごめんとありがとうを言う前に二人に遮られて、スミレは口を噤んだ。何気にジェネシスも遠回しに気にするなと言ってくれたのがわかってちょっぴり嬉しい。

「うん、でも……ありがとう、二人とも。私も補佐になれるように頑張るね」
「無理はするなよ」
「アンジール、わかってる。でも、早くみんなの負担を減らせるようになりたいし……」

スミレの決意をジェネシスが鼻で笑う。

「……精々励むことだな。どうせ、無理だろうが」
「こら、ジェネシス!」

見下したような言い方をアンジールが即座に窘めた。ジェネシスは肩を竦めて、ヒールを鳴らしながらフロアの奥に歩いて行く。

「待て、ジェネシス。勝手に立ち去ろうとするな」
「なんだ鬱陶しい。俺には関係のないことだろう」

どこまでも刺々しいジェネシスに頭が痛いとばかりにアンジールがため息をついた。

「まあ待て。任務を肩代わりしてもらっている礼だ。飯を奢る」
「…………」

セフィロスの一言でジェネシスは不承不承に踵を返して戻ってくる。あ、そこはちゃんと言うこと聞くんだ。とジェネシスの反応が何だか面白かった。





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