また幾日かが過ぎた。
何も変わらない現実に、増えていく生傷。変わったことといえば夢の中の声だけの男と少し話をするようになったことくらいだろうか。細やかな話をすることもあれば、何も話さないこともあったが、一人ではないという事実は少なからず私の心の支えになっていた。
「また泣いているのか」
新たに増えた腕の傷を押さえながら、涙を溢しているとそんな言葉がかけられた。いつもと同じ問い掛けに私は頷く。
「そうか……」
そこからまた沈黙が続いた。もう今日は何も言ってこないのかもしれない。私はその沈黙を受け入れて、膝を抱えて目を閉じる。
「……お前の名前を教えてくれないか?」
沈黙を貫こうとした矢先に男が再び口を開いた。細やかな問い掛けにスミレは少しの間を置いてぼそぼそと答える。
「……スミレ……」
「スミレ、か……不思議な響きだ」
名前を復唱されて、とくりと心臓が鳴った。誰かに名前を呼ばれるのはいつ以来だろう。自分の名前なのに何故だか懐かしさを感じて、止まっていた涙がまた溢れた。
「いつか……」
「…………」
「いつか夢の中ではないお前に会いたい」
現実にいるのかも判らないのに男はそんな願いを言う。声しか知らないのに会ったとして分かるんだろうか、なんて下らない疑問が浮かんでちょっとだけ涙が引っ込んだ。
こんな広い星で神羅の拷問室にいるナツキを見付けられる可能性なんてゼロに近い。それでも、確証のない"いつか"は、スミレの細やかな希望になった。