揺蕩っていた。
優しく暖かな、薄緑色のぬるま湯の中で。
これは夢だ、と直感する。上と下もなく、どこまでも続くライフストリームの流れを全身に受け止めながら、私は意味もなく手を伸ばした。淡い光の流れが指先にまとわる。優しい温もりに涙が零れた。
ずっとここで眠っていたい。あの恐ろしく苦しい拷問はもう受けたくない。
僅かな時間だったとはいえ、スミレの心を深く傷付けるには十分だった。気を失う前の事を思い出し、震える。
怖かった。痛かった。一欠片さえも信用されない、敵を見るツォンの瞳が。声が。手が。
「う……、」
夢の中とはいえ、心休まる空間に安堵して自然と涙が漏れた。膝に顔を埋めて、ただ泣き続ける。
帰りたい。と願う。トリップ出来るなら最高!なんて思っていたここに来る前の自分がつくづくバカだったと思い知る。異世界から来た事を二つ返事で信用してもらって、キャラクターと同棲して、世界を救う──自分が描く夢物語のようにそう上手く事が転ぶ訳なかったのだ。
もしかしたらモンスターに襲われて殺されていた可能性だってあったかもしれない。それを考えれば私は生きているだけまだマシなほうだ。きっと。
意識が引き上げられるような感覚に、また暗い時間が始まるのかと私は絶望した。