- ナノ -



車を降り、冷たい夜明け前の空気で深呼吸をした。薄く積もった雪を踏みしめて、装備を確認する。

壊して失くした通信機も新しいものに取り替えた。感度は良好。腰のガンホルダーにハンドガンとマグナム、背中に新しくスナイパーライフルを携えた。投擲武器も補充して、後はナツキにはあまり必要ないが回復アンプルも念のため、サイドバックに押し込んだ。

「BSAAのお出ましか。流石早いな」

大型の軍用ヘリが頭上を通りすぎていく。元々クリスと共に身を置いていた組織だが、今回は味方ではない。何も言わずに村に向かっていくヘリを見届ける。

「任務変更は?」

背後からアンバーアイズが歩み寄る。肩越しに振り返って目を合わせた。腕を軽く上げて合図してくるアンバーアイズにナツキもにっと笑って同じジェスチャーを返す。

「いや、変更はなしだ。ミランダを始末し、ローズを救う。ただそれだけだ。もう失敗はできない」

「じゃひと暴れするか。昔みたいにな」

機関銃を肩に担ぎ、ロボが不敵に言い放つ。空気がピリリとして、ナツキも顔に緊張を浮かばせた。もうこれ以上失敗は出来ない。イーサンのためにも。

「任務開始!」

「「了解!」」

その声を合図に全員がそれぞれの持ち場に向かう。ナツキはクリスの補佐として、共に菌根の捜索だ。

「ケイナイン、BSAAの動向が知りたい。探ってくれ」

「了解!任せな」

ケイナインはその指示に頷き、俺達とは別の方向へと走っていく。

村を一望できる高台でアンバーアイズがスナイパーライフルを構えて様子を窺っていた。村からは火の手が上がり、更には菌糸の触手があちこちで蠢き酷い有り様だ。

「BSAA……ここまでするとは……」

「まるで地獄だな」

触手が上空を飛ぶ、BSAAのヘリを貫き落としている所だった。遠くで爆発し木っ端微塵にになるヘリを見てナツキは顔を歪ませる。

「どうやって目標に近づく?」

「まずはアイツを片付けないとな」

アイツ──城門前に蔓延る巨大な菌糸の触手の束だ。並大抵の武器では歯が立たなさそうだが、そういうときのための武器が此方にはある。

「援護は任せろ。さあ行こう」

アンバーアイズに小さく頷いて、俺とクリスは村に続く坂を降りた。そこかしこからライカンの唸り声が聞こえてくる。激しい戦闘になりそうだ。

「フィーライン、お前は援護射撃を頼む」

「俺が前に出た方がよくない?」

「俺にも少しくらい活躍させてくれ」

「……りょーかい。そういうことにしとく。援護は任せて」

本来ならナツキが前のポジションなのだが、クリスの言葉の裏に隠された意思を汲み取り、仕方ないなと笑いつつスナイパーライフルを肩から下ろして後方に回る。崖を滑り降りて、変わり果てた村に足を踏み入れた。

茂みからライカンが複数体飛び出してくる。

「此方フィーライン。敵性B.O.W.とコンタクト」

即座にクリスが迎撃し、その弾幕から逃れたライカンをナツキがスナイパーライフルで撃ち抜いた。次から次へと現れるライカンに舌打ちをする。

『予想より数が多い。気を付けろ』

ナイトハウルの方も状況は同じらしい。通信に激しい銃声が混ざっている。
素早くマガジンを入れ換えて、弾を装填した。スコープを覗き、ライカンの頭を狙う。着実に一体ずつ倒して、少しずつ前進する。

「成長したな。俺より上手くなったんじゃないか?」

「そんなことないよ。俺なんてまだまだクリスの足元にも及ばないもん」

敵の襲撃が一旦収まった所で言葉に交わす。

「そう謙遜するな。お前の悪いところだ」

謙遜ではなく本心だったのだけれども。銃の腕はともかく、リーダーとしてのカリスマ性や任務の遂行力だとかそういうもの全てが、どうあがいたってクリスには追い付けそうにない。

「自信を持て。お前は俺の自慢の息子だ」

「……うん」

いつだってそうやってクリスは、ナツキが欲しい言葉を掛けてくれるから。

行くぞ──呼び掛けに返事をして、クリスの後を追いかけた。

その背中はいつも眩しくて大きくて、誰よりも尊敬できるんだ。



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