- ナノ -



ハウンドウルフの合流ポイント。
用意されていた軍用車の中で、俺は項垂れていた。隣ではクリスがタバコを燻らせている。今は他の仲間の合流とアンバーアイズの報告待ちだ。

何も見たくない。
何も聞きたくない。

通話状態の電話から聞こえた音から、イーサンの生存は限りなく低いのは明白だった。報告はきっと悪いものになる。
痛いくらいに手を握りしめて、歯噛みした。一生この通信機が鳴らなければいいのにとさえ思った。

『隊長、イーサン・ウィンターズの死亡を確認。遺体の回収は断念したが、記録には残した』

淡々としたアンバーアイズの言葉が鼓膜を揺らした。デバイスが震えて、画像データが送られてきた事を知らせる。

記録。

つまりはイーサンの死体の写真だ。見たくもない。報告が来ても項垂れたまま動かぬ俺にクリスは何も言わなかった。その代わりに俺の頭を引き寄せて、抱き締めてくれた。

「う、うぅ……」

通信機に音が入らないように、声を押し殺して泣く。それでも少しは聞こえてしまったらしく、大丈夫か、とアンバーアイズから心配されてしまった。

「ごめん……泣いて、ごめん」

『気にするな。俺達も辛い。泣いて当然だ』

『フィーラインは優しいからね。……だけど、あまり気負い過ぎない方がいい』

アンバーアイズとタンドラのフォローが心に滲みて、また涙がこぼれ落ちそうになってギリギリで堪えた。深呼吸を繰り返して気持ちを落ち着かせる。

今は作戦中なんだ。もう泣かないようにしないと。そう自分に言い聞かせ、そっとクリスの胸を押して顔を上げた。

「……ローズちゃんを助けなきゃ。それが、イーサンの願いだったから」

「あぁ。行けるか?ナツキ」

『フィー、"スクァッド"ならいつでも行けるぜ』

耳元で聞こえてきた通信に少しだけ笑って、ナツキは力強く「うん」と答えた。



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