「──、ぅ……」
凍えるような寒さで意識が持ち上がった。視界の半分が白に埋もれている。曇天のせいで日差しはないが、空は明るい。
──?
明るい?
「ローズちゃん!!──ってぇ……!?」
はっとして勢いよく身体を起こした瞬間に激痛が走って、再び地面と仲良くするはめになった。寝転がったままそろそろと悴む指先で腹部に触れる。ぬるり、と粘りけのある液体が指先についた。
「うへぇ……死にそう……」
もしかしなくても、大怪我だ。
それよりもこんな雪の中で寝て、よく凍死しなかったと思う。ごろりと転がって仰向けになってふう、と息を吐き出した。寒さのせいかウロボロスの治癒能力が鈍い。
じくじくと痛む傷口を押さえて、ぼんやりと空を見上げた。
「………………ぁ、連絡しないと」
痛みで思考までも鈍っていた。
ローズがミランダに奪われた事を伝えなければ。寝転がったまま、通信機に手を伸ばした。
「…………ない」
いつも着けている場所に通信機がない。首を動かして、右を見る。ない。左、ない。上──
「あった……」
頭上に転がっていた。バキバキに壊れた状態で。殆ど原型を留めていない通信機に俺は顔をひきつらせた。
これは最悪のパターンでは。
「……何でよりにもよって通信機壊れるかなぁ……」
ハンドガンやマグナムならともかく、通信機。武器が壊れるのも困るが、連絡手段が絶たれるのは一番痛い。救援すら求められないし。
あぁもう、つくづく運がない。
がしがしと前髪を乱雑にかきあげて、あー……と意味もなく声を出す。白い吐息が空気に霞んで消えた。
そうしている内に徐々にだが、痛みが引いてきた。そろそろ動けそうだ。というか動かないと怪我より先に寒さで死にそうだ。主に義手の付け根の右肩が。
「……っし、行くか」
寒さに身体を震わせながら、ざくりと一歩踏み出した。ここでじっとしていても仕方ない。他の隊員と合流しなければ。
「うわ、お気に入りの上着、血まみれだよ……」
俺は雪景色の向こうに微かに見える村に向かって歩きだした。
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