- ナノ -


イーサンと別れ、ナツキはクリスと共にハイゼンベルクの工場の各所に爆弾を設置していた。工場の主がイーサンに集中しているからか、或いはイーサンが大暴れしたせいか、内部はかなり手薄になっていた。
敵も多少はいたが、単体で彷徨くハウラーやゾルダートなど敵ではない。何よりクリスと共にいれば怖いものなしだ。あっさりと殲滅して、手頃な壁に爆弾を貼り付けた。

「クリス、最後の爆弾の設置を完了」

「よし、退避する」

後はクリスの手元にあるスイッチひとつでドカン、だ。これで工場内のB.O.W.も一掃できるし、ハイゼンベルクに痛手を負わせれる。

「了解」

お互い眼を合わせて頷きあい、ナツキとクリスは同じタイミングで走り出した。


工場から離脱し、しっかり距離を取った上でクリスは爆弾のスイッチを押した。小規模の爆発が連なって地鳴りのように響く。建物の一部から火の手が上がり、微かな熱気がナツキの元まで届いた。あっという間に工場は倒壊し、全体が炎に包まれる。これで工場は完全に機能を停止しただろう。ハイゼンベルクの僕は皆瓦礫の下だ。
後はイーサンがハイゼンベルクを倒すのを待つのみ。

「イーサン、大丈夫かな?」

「安心しろ。あいつは強い男だ」

クリスに訓練をつけられただけあって、体力は勿論、気力の方もナツキ以上にあったのは一緒に行動していて知っている。だけど、どこか気掛かりなのは何故なのか。イーサンから感じたあの死人みたいな気配も、不安のひとつだ。

「うん……」

心の片隅に小さな蟠りを残したまま、ナツキはイーサンがいるだろう方角を見つめて胸元を押さえる。遠くで雷のような激しい光が瞬いて、爆音が響いた。

「何だ?」

「分からない。けど、戦闘音はなくなってる」

「ハイゼンベルクを殺ったか?予備のデバイスをイーサンに渡してる。連絡してみよう」

クリスがデバイスを取り出し、イーサンに電話をする。幾つかのコールの後、通話状態に移行した。

「イーサン!無事?」

やや食いぎみにクリスよりも先に訊ねる。

『あぁ。ハイゼンベルクを倒した。ミランダを見つけてローズを取り戻す』

「ひとりじゃ無理だ。危険すぎる。そこで待て、いいな?」

『…………』

不意に返答が途絶えた。不穏な気配を感じて、イーサンの名前を呼び掛ける。

「イーサン!答えて!イーサン!!」

だが、それにイーサンは答えない。通話状態のデバイスから微かに聞こえた女の声──それは、ミランダの声だった。



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