ミランダのこと。この辺り一帯の村のB.O.W.。特異菌。全てをクリスはイーサンに説明した。そして、これからの事を。
「俺達で必ずローズを救い出すんだ。共にな」
「あぁ、ケリをつけよう。ミランダを見つけて……奴を終わらせてやる」
イーサンとも和解し、話は纏まった。あぁ良かった、と密かに胸を撫で下ろす。ちょっと泣きそうになって膝に顔を埋めた。
「……ナツキ、いつまで隠れてる」
「ナツキ?ナツキもいるのか?」
突然クリスに振られてびく、と身体を揺らした。こうなったら出ていかざるを得ない。イーサンとは湖以来だ。あの時の険悪な空気を思い出すと顔を合わせるのが怖くて、俯いたままおずおずと戦車の影から出た。イーサンの草臥れたジーンズの裾と革靴だけが視界に映る。
「えぇっと、」
とりあえず何か言わないと。と中途半端に開いた口は間投詞のみを発するだけで止まる。挙動不審になりながら、助けを求めるようにクリスを見た。のに、クリスは微笑むだけで何もしない。あぁもう、この鈍t──
「服、血だらけじゃないか……大丈夫なのか?」
「え、あ……」
掛けられた言葉は身を案じる物で。
「……うん」と俺は小さく頷いた。イーサンが近づいてくる気配がして──
「無事ならいい」
優しく頭を撫でられた。
子供にするように優しく。
「あ!あのさ……黙ってて、ごめん。他にも色々、謝らないといけないこと沢山……ローズちゃんも守れなくて、ごめん」
積もり積もった謝罪。
「もう、いいさ。もう怒ってない。だから、顔を上げろ。ナツキ」
恐る恐る顔を上げる。苦笑いを浮かべたイーサンを見た瞬間、堪えていた物が爆発して俺は顔をぐしゃぐしゃにしてイーサンの胸元に飛び込んでいた。
「い"ぃーさぁんんん!俺今度はちゃんとローズちゃん助けるからぁああ!」
「おわっ!?ったくお前は……」
驚きつつも振り払うことなくイーサンは俺を受け止めて、背中を優しく撫でてくれた。その手のひらの温かさが余計に涙腺を刺激してくる。
優しさに甘えて、ずびずび鼻水流したら思い切りぶっ飛ばされた。酷い。
「……とにかくお前は怪我してるんだから、無理するなよ」
「うん、ありがとう。イーサン」
服の袖で涙やら鼻水やらを拭い、へへへと笑う。またイーサンと話して共闘出来るのが嬉しくて堪らない。
顔を緩ませていると後ろから乱雑に頭をかき回された。荒っぽいそれにたたら踏みながら、振り返って頬を膨らませる。
「何すんだよ、クリス!」
「何でもない。ほらさっさと動くぞ。俺達には時間がないんだ」
「あだっ!」
頬を思い切り摘ままれて、膨れっ面は一瞬にして萎んだ。赤くなっているだろう頬を擦りながら、ナツキは逃げるようにパソコンを置いているテーブルまで走る。
「ナツキ、あんたの息子なのか?」
「何故分かった?」
「親が子を見る目ってのはすぐわかるさ。……あんたに似て真っ直ぐでいい息子だな」
「あぁ、俺の自慢の息子さ」
背後でそんな言葉が交わされているのも、ナツキはちっとも気付かなかった。
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