- ナノ -



──……!

……!!


誰かの叫び声が聞こえる。
誰かが俺を呼んでいる。

「──ナツキ!」

重い瞼を持ち上げる。今回は誰にも阻まれることなく、開けられた。霞んだ視界で誰かが俺を覗きこんでいる。

「……くりす、」

「あぁ、良かった……」

掠れた声で名前を呼ぶと、クリスは安堵したように一息をついていた。覚醒直後で上手く思考できなかったが、口の中の血の味で気を失う前の事を徐々に思い出す。

ハイゼンベルクに手も足も出せずに負けた。自分の情けなさに泣きたくなる。

「ナツキ、起きたばかりで悪いが──」

「あぁ……うん。頼んでいい?」

ナツキを寝台に縫い付けるように胸元に深々と大振りのコンバットナイフが刺さっていた。出血は酷いが、ギリギリ心臓を避けていたお陰で何とか生きている。奇跡──いや、きっとあの人が助けてくれたんだろう。

人並み外れた回復も刺さりっぱなしでは効果を発揮しない。クリスもそれは分かっているとはいえ、抜くのはそれなりに痛みも生じる。出来ることなら自分でやるのがいいのだが、小振りのナイフならともかく、コンバットナイフは自分で抜けそうにない。

クリスが柄を握ったのを見て、手を固く握りしめ、歯を食い縛った。

「──……〜〜っ!」

身体から異物が抜ける感覚は何度経験しても慣れる物ではない。は、は、と短い呼吸をしながら、脱力する。

「ナツキ、すまない。お前にばかり無理をさせている……」

「……気にしないで。俺は平気だから……怪我だってすぐ治るの知ってるでしょ?」

ほら、とついさっきまでナイフが刺さっていた場所を指す。すでに表面を薄い皮膜が覆い始めている。深い切り傷だからいつもより時間は掛かるが、完治まで後数分といったところか。

クリスに支えて貰いながら、身体を起こしてサイドバックから増血剤を取り出して、口の中に放り込む。幾ら傷が治る、といっても失った血液までは戻らない。増血剤は俺の大事な任務のお供だ。

「俺は父親失格だな……」

「そんなことないよ」

「死ぬかもしれない仕事をやらせてる。本当ならイーサンのように守らなければならないのにな」

「それは俺が望んだことだから。……っていうかイーサンは別格だよ」

イーサンの執念というか、家族愛は強すぎる──いや、あれこそが本当の家族、という物なのか。造られた人で、試験管で成長したナツキには判断材料が少なすぎて解らないけれども。

「人それぞれ、だよ。俺はクリスと一緒に戦う方が良いもん」

「そうか。だが、無理はするな……お前は俺の大事な家族だからな」

抱き締められて、俺もクリスの腰に腕を回して抱きしめ返した。


──あ。そういえば、夢にウェスカーが出てきたよ。

──え"?あいつが?


あの人の事を報告したら案の定物凄く嫌そうな顔をされた。


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