「ん?」
何か聞こえたような気がして、振り返る。だが、背後には敵らしき影も見えないし、ただひたすらレーザーが駆け巡る音だけが聞こえるだけだ。
「あら、ナツキどうしたの?」
「何か聞こえたような気がしたんだけど……」
変だな、と首を捻り、もう一度耳を澄ましたが何も聞こえない。
「何も聞こえないわよ?」
「気のせいだったのかな……」
こんな状況だから、少し神経質になっていたのかもしれない。ナツキはそう解釈して、視線を前に戻した。
ポポカリムから逃げた俺達はまた広い空間に辿り着いていた。エネルギーはどこから補給しているのかよくわからない球体が空間全体を照らしている。その両脇の謎の建造物からはレーザー光線が放たれ、縦横無尽に走っている上に敵も出てくるしかなり危険な場所だ。
奥の神殿らしき建物に行くためには丸い石盤が三つ必要なようで、俺達は二手に別れて探していた。最初、クリスとシェバ、俺と何故か俺が一人になる分け方をされて、ギリギリの所で止めた。俺が一人とかおかしいじゃんんんん!!??とか何とか叫び散らして、何とかシェバとペアを組めたのだ。
そんなことは置いといて。盾を持ったマジニをシェバがショットガンでぶっ飛ばし、倒れた所をナツキがトドメを射す。それを何度か繰り返し、敵がいなくなったのを確認してから祭壇に奉られていた丸い石盤を手に取った。
「さ、待ち合わせ場所に戻りましょ」
その言葉に頷いて、ナツキとシェバは来た道を戻る。待ち合わせ場所と言うのはこの石盤を嵌める扉の前だ。ちょうどこの空間の真ん中にあり、合流するのによい場所だった。
重い石盤を落とさないようにしっかりと握り締めて走る。タイミングを見ながらレーザーを避けて二人は待ち合わせ場所に戻った。
「戻ってきたな。よし、石盤を嵌めてくれ」
ナツキとシェバが戻ってきた時にはクリスはすでに扉に石盤を二つ嵌めて待っていた。「はーい」と間延びした返事をしつつ、持っていた石盤を空いた所に押し込む。
扉が開き、俺達はまた新たな部屋へと進んだ。
◇
神殿内部にはオレンジ色の光線が部屋を横切っている。原理は不明だがこれも一つ前の部屋で見たレーザーと同じものだろう。
少し近付いただけでも熱気を感じて、ナツキは即座に光線から距離を取った。これは触れたら大怪我間違いなしだ。
「シェバ、ナツキ。この光には気を付けろ。下手に触らない方がいい」
「言われなくても」
神殿の奥側にちょうど高台になっている部分があり、そこに上がれば光線には当たらなさそうだ。
「俺達ここにいるからさ、クリスは仕掛けを動かしてくれよ」
「あぁ。わかった。待ってろ」
クリスは頷いて、光線を反射させている鏡を背負った石像に手を掛ける。ごりごりと地面を擦りながら石像を半回転させて、光線を宝石みたいにキラキラしている青い球体に当てた。光線の熱を受け止めて宝石が燃え上がる。
「これで良いみたい、だな」
俺とシェバは高台を降りて、燃え盛る仕掛けの周りに集まった。がこん、と音を立ててエレベーターのように下降する。文明の利器というにはあまりにも説明がつかないそれに驚きつつ、辿り着いたフロアを見回した。同じ様な仕掛けが並んでいるが、上階よりも数が多い。少し難易度が上がっているようだ。
「じゃあ、次も上で待っとくね」
用意されている高台によじ登り、クリスが仕掛けを動かすのを待つ。コツは掴んだらしくクリスの動きに迷いはなかった。幾つかの仕掛けを動かしてからクリスは光線を阻む柱を蹴り倒す。光の線がぐるりと部屋を一周してエレベーターに熱エネルギーを送った。
似たような部屋を通りすぎた先に待ち受けていたのは遺跡ではなかった。また様変わりした洞穴の中央には花畑が広がっている。花粉の多い種類なのか、花の周囲には目に見えるほどの黄色い花粉が舞っていた。
「地下にこんなところがあるなんて」
「見たことのない花だな……」
オレンジ色の花弁は天井の穴から漏れる太陽光を一身に受け止めている。とてもじゃないが美しいや綺麗なんて感想をその花には見いだせなかった。ただの花だというのに、気味の悪さを感じる。
「あれは……!?」
何かに気づいたクリスが花壇の脇にあるコンテナに駆け寄り、表面についた煤埃を払った。ナツキも背後からクリスの手元を覗く。ボロボロで見辛かったが、赤と白の色彩。傘を模したマークが描かれていた。
「アンブレラだ!」
「え?」
シェバもその名前を知っているらしい。何も知らない俺だけが一人、アンブレラって何ぞ?傘?と事態を把握できずにいる。ただ二人の表情から察するにあまり良いことでは無いことだけは理解できた。
「どうしてアンブレラが?」
「わからん。だが、かなり昔のものだ」
「こんな所で何の実験をしていたの……」
「向こうにはトライセルか……。一体どういう関係だ……?」
クリスが顎でしゃくった先のテントには油田施設で見た緑の五角形が三つ揃ったマーク。
アンブレラ、トライセル、花、実験……始祖ウィルス──。フラッシュバックのように頭の中に浮かぶ。"始祖ウィルス"?知らない単語だ。知らない筈なのに、俺はどこかでその言葉を聞いたことがある。どうして?俺は何か忘れてる?
無意識に米神を押さえていた。
「ナツキ?……ナツキ!」
「ぇ、あ……何?」
シェバに大声で呼ばれてナツキははっとして顔を上げた。取り繕うように笑顔を貼り付ける。脳裏によぎった事なんて気のせいだと思い込む事にした。
「大丈夫なの?ぼーっとしてたみたいだけど……」
心配そうに顔を覗き込まれてナツキはへらりと笑い「大丈夫だよ」と返す。その返答にはあまり納得していなさそうだったが、シェバは追及することなく、ただ息を吐き出した。
「無理はしないでね」
「うん。わかってるよ」
俺はこくりと頷いて、シェバに答えた。
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