──全くお前は。また性懲りもなくこんなところに来るとはな。
懐かしい声が鼓膜を揺らす。あぁ、この声は。見なくともわかる。あの人だ。
重たい瞼を開けようとしたが、それより先に手のひらで目元を覆われる感覚がした。邪魔な手のひらを退けたくて、腕を動かそうとしたけれど、ぴくりとも動かない。
もがく俺にあの人が笑う気配がする。
きっと優しい顔をしているんだろう。容易に想像できて、俺も自然と笑みが漏れた。
──ナツキ……頑丈だからと己を過信するのは止せ。俺が作ったウロボロスとて完璧ではないのだ。
でも、守りたいものが、やらなきゃいけないことが沢山ある。クリスやハウンドウルフ隊の仲間達、それにイーサン、ローズ……欲張りだから、あれもこれも、それも全部。
──そういう所はあいつにそっくりだな。全く、似なくて良い所ばかり似る。
心の声は向こうに全部筒抜けらしい。呆れたようなため息が聞こえた。
──とにかく。あまり寝ている暇もないんだろう?特別に俺が力を貸してやる。感謝するんだな。
あぁ。やっぱり思った通り、いつだって優しい。クリスはその事を言うと物凄く嫌そうな顔をするけれど。
「うぇすかー、ありがとう」
掠れた声ですぐそばにいるだろうあの人に礼を言う。
──もう、来るんじゃないぞ。
最後に聞こえた言葉に俺は苦笑した。
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