side:???
とある施設の一室。
ボディラインの出る白いドレスを纏った妖艶な女と、室内だというのにサングラスを掛けた金髪の男がソファに腰かけていた。
「積込の方は順調。もう少しで飛び立てるわ」
女はアルミケースから注射器を取り出しながら、男に猫なで声で話し掛ける。だが、男は女に目を向けることもなくただ「そうか」と淡白な言葉だけを返した。
たった一言でも男から反応が返ってきたのが嬉しかったのか笑みを浮かべて、注射器の針を確認するように指で弾く。それから男の左腕に注射した。
「あのプラーガって良くできた商品ね。最初は半信半疑だったけど……」
注射が終わると男は女の会話など興味がないのか返事もせずに立ち上がり、ソファから離れる。
「そして、ウロボロスも完成」
空になった注射器を捨て、女は男を追うように立ち上がった。
「トライセルでの地位も思いのままだな」
「……あんなつまらないところ、もう興味ないわ」
誘惑するかのように指先で男の肩をなぞりながら、隣に並び言葉を続ける。
「貴方にはパートナーが必要。貴方の世界で生きていく……私には分かるの」
腰に手を這わせて、女は顔を寄せた。それでもなお男は表情ひとつ変えないどころか、一瞥さえしない。
「そして、私にはその資格がある……でしょ?」
"資格"その言葉でようやっと男は僅かに首を動かして、サングラスに隠された瞳に女を写した。無遠慮に女の顎を掴み「そうだな」と返す。感情の籠らない冷淡な声色だった。
女は顎を掴む手を振り払い、不快そうに顔を歪めたが、男はそれにさえ気にする素振りを見せない。不穏な空気が流れるそこに第三者の声が割り込んだ。
「BSAAが侵入しました」
男はほんの僅かに首を動かしてそちらを見る。烏を模した仮面を着け、コートを纏った人間が戸口に立っていた。
「貴方の友人クリス・レッドフィールドよね……気になる?」
挑発するように女は口角を上げて問う。
「……計画は最終段階だ。遅れるな」
女の問いには答えず、男は機械的にそれだけ言うと話は終わりだとばかりに女から視線を外す。男の反応は女が期待していたものではなかったらしく、気分を害したように顔をしかめると女はアルミケースを持ち、大股で仮面の人間と共に出ていった。
一人残った男は窓から見える工場内にあるミサイルを見下ろして口許を歪める。
「後は……"アレ"を回収しなければな」
不穏な言葉は誰にも聞かれることなく、宙へと消えた。
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