side:Ethan
「俺、ぜっっっっったい降りないから!!」
さっき言っていた言葉は何処へいったのか、力一杯拒否するナツキにイーサンは思わず半目になる。映像にあった井戸の場所まで来たのはいいが、ナツキが降りたくないと駄々をこねだした。
「井戸とか貞子出てくるとこじゃん!俺無理!」
「お前は子供か!?」
ホラー映画なんて所詮子供騙しだというのにこの男は……。頭痛がしてきそうなやり取りに額を押さえながらイーサンは「もういい」とため息をついた。
「分かった。井戸には俺が降りる。そこで待ってろ」
そもそも底の知れてる井戸だ。わざわざ二人で降りる必要もない。
「え"っ!まじで行くの?」
「どうせ降りないと戻れないんだ。行くしかないだろ」
側面に取り付けられた梯子をに手をかけた、一段ずつ滑らないように気をつけて降りる。上を見ると不安げな顔をしたナツキがライトでこちらを照らしながら見下ろしていた。
(さっさと上に上がってやらないと)
迷子の子供みたいなナツキを見ているとそんな庇護欲が沸いてくるから不思議だ。どぶ臭い井戸の底に溜まった濁った水に足を突っ込み、周りを見回す。捨てられた人形の腕に黄色いタグの鍵がこれ見よがしに引っ掛かっている。
「これか」
タグには雷のマークが描かれていた。配電盤の鍵に違いない。これで地下階から出られる可能性がぐっと上がった。ナツキも喜ぶだろう。
「って俺は何であいつのことばっかり考えてるんだか……」
しっかりしろ、イーサン・ウィンターズ。今はローズを助けるためにここにいるんだぞ──自分に言い聞かせて、戻るために梯子に手をかけた。
「ひぇあああ!??」
イーサンが梯子を上りきる直前に何か重いものが倒れる鈍い音がした。と思ったら、ナツキのくそでかい悲鳴まで重なり、地下室に反響する。
「どうした!?」
急いで上がり、ナツキの安否を確認した。暗がりに半泣きのナツキがおずおずと奥を指差す。
「……えっと、揺り篭が倒れました……い"てぇ!!?」
俺は無言でナツキの横っ面を殴った。ちょっとだけスッキリした。
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