- ナノ -


曲が終わると同時にかちゃ、と鍵の外れる音がして、オルゴールの小さな引き出しが開いた。中を確認するとピンセットが入っている。成る程、必要な物はひとつずつ手に入れられるように仕向けているらしい。

さっきからずっと敵の手の上で踊らされていて気にくわないが、今のところはどうすることもできなさそうだ。

とりあえずピンセットを持ってミア人形の元へ戻り、口の中の物をピンセットで上手くつまみ上げる。薄くて細長いテープがひょろりと口の中から出てきた。

「何これ」

「フィルムだな。やっぱり俺を煽りたいらしいな……」

フィルムに描かれた物を見てイーサンが心底うんざりとしたように吐き捨てた。不意にちかちかと電灯が瞬いて、何処からともなく女性の──恐らくミアの声が聞こえてくる。

『あぁ、いえダメよ。イーサンには言えない……こんなこと絶対……』

ミアにはイーサンには言っていない秘密があった、とでも言いたいのか。さっきから煩わしいし、精神衛生的によろしくない。ひょい、とラジオを持ち上げてイーサンに振り返る。

「うるさいね、このラジオ。壊していい?」

めきゃ──いい?くらいの辺りでつい手に力が入ってしまった。ネジやバネが飛び出したラジオの成れの果てにイーサンが顔をひきつらせる。

「あ、ごめん。聞く前に壊しちゃった」

「いや……別に構わないが」

半壊してラジオはノイズすら発さなくなった。これで耳障りな声も聞こえなくなるだろうし、結果オーライってやつだ。

気を取り直して、二人は書斎に入った。古紙の匂いが充満した部屋を、間接照明の暖かな光が部屋を照らしている。こんな時でなければ、ゆっくりと本を読みたいところだ。
映画も見れるらしくシアター用のスクリーンが本棚を隠すように吊り下げられていた。その正面には旧式のフィルムプロジェクターがある。イーサンが先程見つけたフィルムをプロジェクターに取り付けて再生する。リールが回転してスクリーンにノイズ混じりの映像が写し出された。

何処か知らない場所。階段を下りたその先には古びた井戸──

「うわ、貞子じゃん」

思わず、そんな感想が漏れた。こんな粗い映像に井戸、というチョイスはまさしく某映画のアレしかない。

「何だ、サダコって……」

「知らないの!?有名なジャパニーズホラー映画に出てくるお化けだよ!」

まさか知らないなんて。あんなに怖いし、有名なのに。

「日本映画なんて知るかよ。ってかお前、日本人だったのか」

「あ、うん。日本人だよ。……っていうか、それは勿体ない!今度見てみてよ!」

面白いから。なんて話していると、スクリーンが落ちて隠し扉が開いていた。

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