トロッコに乗り、行き先は地下坑道。エレベーターに備え付けられた明かりで近辺は何とか見えるが、奥は暗い闇に包まれている。天井付近を飛び交う蝙蝠の羽音が五月蝿い。
「投光器があるわね。これで照らしていきましょう」
「あ、じゃあ俺が持つよ」
隅に置かれていたハンディ用の小型投光器を拾い上げる。小型ではあるがこの闇の中では申し分ない光量だ。前を照らしながら、ナツキ達は坑道の先へ進んだ。
進めど進めど、真っ暗闇。
それに足場も悪い。トロッコのレールに何回足を引っかけたかわからない。躓きそうになる度にクリスが身体を支えてくれて、大事にならずにすんでいる。
「いい加減、足元に注意しろ。ナツキ」
「う……善処します……」
躓き回数が片手を超えた辺りでクリスに怒られた。分かってはいるのだが、前を見やすいように照らすのに集中すると足元が疎かになってしまうのだ。二つの事を同時に出来るほどナツキは器用ではない。
「次躓いたら私が変わるわよ」
「う……はい」
声色で怒っている気配を察知して、俺は小さな声で返事をした。
水源が近いらしく、坑道の一部は浸水している所もあった。深くはないものの膝下程はある。できれば濡れたくは無いのだが、生憎道はそこしかない。諦めて水溜まりに突っ込んだ。
「うへぇ……気持ち悪い……」
「こら、ちゃんと照らせ」
濡れた靴とズボンの裾の気持ち悪さに顔をしかめる。その拍子に手元が揺れたらしくクリスに怒られた。はいはい、と適当な返事を返して、投光器を持ち直す。ライトが前を照らすと黒い影が浮かび上がった。言うまでもなく、マジニだ。
「うわぁああっ!?」
「くそっ!暗闇に紛れていたか!」
持ち前の反射神経でクリスが素早くショットガンを撃った。至近距離で散弾をもろに食らったマジニは肉片を撒き散らしながら絶命する。視界の悪い坑道で不意打ちを食らうのはかなり心臓に悪い。
「はぁ」
ため息をひとつ。暫くは続きそうな坑道に憂鬱な気分になった。
◇
濡れたズボンの裾が幾らか乾いた頃。長く続いた坑道の先にようやっと光が見えた。外ではなかったが、光源があるだけでもほっとする。
だが、侵入者防止用のトゲのついた柵が行く手を阻んでいる。その手前には赤い持ち手のクランクが取り付けられており、回せば開けられるようになっているようだ。
「俺が回す。ナツキ達は先に行ってくれ」
クリスがクランクを回して、柵をゆっくりと開けた。向こう側は明るいし投光器はもう必要なさそうだ。短い間だがお世話になった投光器を地面に置いて、ナツキはシェバと一緒に柵を潜り抜けた。
ガシャン──
クリスが手を離すと、勢いよく柵が降りて鋭い先端が地面に突き刺さる。あの下にいたら絶対死ぬ。無言のまま、ナツキは顔を青くさせた。
「ナツキ?行くわよ。きっと奥にこの柵を開けるクランクがある筈だわ」
シェバに呼ばれて、ナツキは小走りで駆け寄った。坑道の奥は大空洞に繋がっており、階段上になっていて、要所に取り付けられた梯子で上段に上がれるようだ。まだ鉱山として使われているのか、採掘用らしき資材があちこちに並べられていた。
周囲をキョロキョロと見回して、柵を開けられそうなスイッチか何かがないかと探す。
「これ、かな?」
大空洞の中央に組まれた足場の根本に似たようなクランクが取り付けられていた。説明が書かれている貼り紙もないし、回して確認する他なさそうだ。
「シェバ!クランク見つけたから回すね」
「えぇ、頼んだわ」
クランクの柄を掴み、力を込めた。が、予想以上に硬い。ふぬぬ、と顔を真っ赤にさせて全力でクランクに体重を掛けてもびくともしない。
「もう。何やってるの」
見かねたシェバが一緒にクランクを回す。と、いとも容易くクランクは回った。自身の非力さに少々ショックを受けつつ、ここを出たら身体を鍛えようと誓った。
「よし、通った。もう離していいぞ」
クリスが柵を通り抜けたのを確認して、二人はクランクから手を離す。遠くで柵の降りる音が響いた。
その音が合図だったのか、突然大空洞内は騒がしくなった。
「──?」
すぐそばの地面で跳ねた細長い筒。それが何か確認するよりも前にクリスに肩を掴まれて強制的に身を下げさせられた。その瞬間に大きな音と爆風が身体を撫でる。
「くそっ!ダイナマイトか!!」
「はぁっ!?ダイナマイト!?」
テレビでしか見たことのない危険物に俺は叫ぶ。即座に銃を取り出して、頭上に向けて構えた。天井付近の足場からダイナマイトを握るマジニがいる。先程の攻撃は間違いなくあいつだ。
性懲りもなく、ダイナマイトに火を点けようとしているマジニに狙いを澄まして引き金を引いた。
「当たれ!」
ナツキの狙い通り命中し、マジニは足場から転落して動かなくなった。
「よし!」
「スゴいわ、ナツキ!本当に初心者なの?」
「へへ……嘘なんかつかないよ。動体視力がいいからかも」
「天賦の才って奴ね。羨ましいわ」
シェバと背中合わせになり、次から次へと近づくマジニを撃ち抜く。
「あはは、天才なんかじゃないよ」
「謙遜しなくてもいいのに」
「日本人は誉められると、謙遜しちゃうんだって!」
シェバと話し終わる頃には辺りのマジニを殲滅していた。最後の一体を撃ち倒し、ナツキはふぅと一息をつく。
「よし、行くぞ」
「あ、待って、弾の補充したいから」
敵の襲撃でハンドガンの弾がかなり少なくなった。一応ロングマガジンがついていて普通よりかは弾数は多いが、恐らくもうなくなる頃合いだ。借りていたもう一方のマガジンに入れ換えて、弾の無くなったマガジンに補充する。
その時間、約三分。
「遅いぞ」
クリスのツッコミも尤もであった。
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