- ナノ -


ひとまずあの場を離れて、安全な場所に移動し情報交換をする。俺達を助けてくれたのはクリスとシェバの仲間で、デルタチームの人達だった。全滅したとはいえアルファチームもいたし、クリス達の所属する組織はかなり大きいところなのかもしれない。チームで行動していないクリス達は別動隊、とかだったり。

そんな事を考えていると黒人の男の人が手を前に差し出してきた。それをクリスが握り返す。

「デルタ隊長、ジョッシュだ」

「クリスだ」

二人とも体格がいいから、並ぶとまるで壁──いや、ゴリラが二匹……げほごほ。それはさて置き。ジョッシュさんがこちらを見て同じ様に手を差し出してきた。

「君は?」

「あ、ナツキです。クリス達に保護された一般市民で……」

「そうか。君だけでも助けられて良かった」

クリスに続いて握手を交わす。それからジョッシュさんは「シェバ」と名前を呼び、表情を緩めた。

「ありがとう、ジョッシュ。皆もね」

親しげなやり取りは家族のようで。それがどうしようもなく、羨ましく感じる。俺にも家族はいるはずなのに変な感情が心の中にぐるぐると渦巻いていた。

「知り合いなのか?」

「私、彼に訓練を受けていたの」

「俺達チームの妹みたいなもんだ」

クリスの疑問に二人が答えて、互いに顔を見合わせて笑い合う。それだけでシェバと彼らの関係性の深さが分かった。

「シェバ、そっちはアーヴィングを追ってくれ……やはり奴は鉱山に向かった可能性が高い」

世話話もそこそこにジョッシュさんは作戦の話を切り出した。腰のポーチからSDカードを取り出し、クリスに手渡す。

「これがHDDに入っていた情報だ。ここが片付いたら後を追う。無線は常に開けておけよ」

それだけ言うと、ジョッシュさんはデルタチームのメンバーを引き連れて部屋を出ていった。個人的には皆で行動した方がいいんじゃないのかなと思いつつも、組織に属する以上こればかりはどうしようもないのだろう。

少しだけ静かになった部屋でナツキ達は向かい合った。クリスが先程受け取ったカードをデバイスに読み込ませて、情報を確認する。ナツキもデバイスを覗きこんだ。

色々小難しそうな文字の羅列が少し続いた後に画像データが開いた。色白で金髪の色素の薄い女性が写し出される。見覚えは──ない、その筈だ。

「ジル!?」

「知り合い?」

「あぁ。だが……いや、何でもない」

俺が聞くとクリスは何か続けようとして言葉を濁した。憂いを帯びた表情でデバイスを握りしめて、ゆるゆると息を吐き出す。画像の女性──ジルさんと何かあったのだろうか。気にはなったけれど、クリスは沈黙を貫いていた。

「行こう、シェバ。鉱山の場所は分かるか?」

「駅の向こうよ。そんなに遠くないわ、急ぎましょう」

建物を出て、列車の連なる見通しの悪い場所に進む。何の嫌がらせか列車の間にはワイヤートラップ式の小型爆弾が張り巡らされていた。更にはプラーガに寄生された犬が数体襲い掛かってくる。

「のぉおぉおおおおう!!?いっだぁあああ!!」

飛びかかってきた犬を避けようとして身を捩った瞬間体勢を崩して盛大に転倒した。顔面を列車にぶつけて、地面にぶつけるというコンボを決めた俺は涙をちょちょぎらせる。

「はは、大丈夫か?」

「これが大丈夫に見える?」

「生きてるなら問題ないさ」

そりゃそうですけども。
犬をショットガンで蹴散らしているクリスの横に立ち、ナツキも狙い撃つ。一発一発、確実に敵を射ぬく。

「ナイスショット!やるな」

「ビギナーズラックかもよ?」

「そんなに何回もビギナーズラックがあるわけないだろう。ナツキの実力さ」

軽口を言い合いながら、俺とクリスはにまりと笑った。

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