- ナノ -




「クリス!あそこ!!」

大型の門扉の向こう側で黒煙が上がっている。不燃物を燃やした時に出る有害そうな嫌な臭いが鼻につく。錆び付いた門扉を三人で協力して押し開けて、急いで中へ入った。

古びたタイヤや錆び付いた廃車──スクラップだらけの広場の中央にもうもうと煙を上げるヘリの残骸があった。操縦士は積み上げられた瓦礫の上で燃えている。

「うっ……酷い」

まるで見せしめだ。苦悶の表情を浮かべたまま絶命しているそれにナツキは口元を押さえて目を背けた。ついさっきまでは生きていて、ナツキ達のフォローをしてくれていたのに。もう彼は動かない、話さない。
それでも死者を悼む暇もナツキ達にはなかった。背後からけたたましいエンジン音が聞こえてきたからだ。振り返るとバイクに跨がり、片手に鎖を握ったマジニがこちらに向かって飛んできている所だった。カンマ一秒。なけなしの反射をフル稼働させて、ナツキは横に飛び退いた。雑な避けかたをしたせいで膝を思い切り打ち付けたが、命と比べれば些細な傷だ。

「クリスッ!!」

シェバさんの声にハッとして、体勢を整えながら確認した。運悪く鎖に捕まったクリスがバイクで引き摺り回されている。見ている此方まで背中が痛い。

防具を身に付けているとはいえ、早く救出しなければ──とナツキが動くよりも先に銃声が響いた。シェバさんが撃ったようだ。流石と言うべきか。上手く鎖を撃ち抜いていた。鎖から解放されたクリスが立ち上がったのを見て胸を撫で下ろす。

良かったぁ。なんて呑気な事を思っていたら、俺の正面からバイクの唸る音がした。気のせいだと思いたい、が──そろそろと首を前に向けた。

「んのぉおおおぉお!!!???」

こちらを睨み、エンジンをふかしているマジニと目が合った。顔がひきつる。バイクが動き出すと同時にハンドガンを構えて発砲した。狙いは適当だったが運良くタイヤを撃ち抜き、コントロールを失ったマジニは体勢を崩して転倒する。

ナツキの横をバイクがスライドしていった。ふぅ、と安堵の息を吐き出す。若葉マークの銃初心者でも何とかなるものだ。

「ナツキ!後ろだ!!」

「え"!?」

クリスの大きな声に振り返った。重なるエンジン音。三体のライダーマジニがバイクの前輪を上げて、こちらに向かってきていた。足が竦む。

こんな距離じゃ逃げることも叶わない。

(もう無理だ……)

衝撃に備えて、目を硬く閉じた。が、衝撃はなく、代わりに三発の銃声が聞こえた。薄く目を開けて状況を確認する。ライダーマジニは三体とも倒されていた。何が起こったかわからないが、ナツキはまだ生きているらしい。

「大丈夫かい?」

「ひゃい!!?」

背後から聞こえてきたシェバさんでもクリスでもない声にナツキは奇声を上げて、勢いよく振り返った。優しそうな顔のがたいのいい男の人と目が合う。いつぞや見たアルファチームの人達と同じ格好をしているから、彼もまたクリス達の仲間なのだろう。

愛想笑いを浮かべて、俺は言葉を返した。

「大丈夫です……驚いてすいません」

「ハハ、気にしなくていいよ。声を掛けるタイミングが悪かっただけだしね」

促されて、クリスとシェバさんの元に戻る。二人の元にも三人新しい人達がいた。タイミングよく味方が駆けつけてくれたみたいだ。

「クリス!シェバさん!」

「ナツキ!怪我はないか?」

「無いよ……クリスは大丈夫?引き摺られてたでしょ?」

「あぁ、プロテクターを着ていたから大丈夫さ」

笑顔と共にサムズアップを返された。あんなに激しく引き摺られてたのに……恐るべし、プロテクター。欲を言うなら俺も欲しい。

「あら、いつの間に仲良くなったの?」

「へ?何が?」

「クリスの事呼捨てなのに、どうして私は呼捨てじゃないの?」

「さっき要らないって言われたから……シェバさんもその方がいいですか?」

当然でしょ、とシェバさん──改めシェバは笑った。


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