もしかしたら、と何か閃いたイーサンがダイアル錠に数字を入れた。ら、鍵が開いた。結婚記念日が当たりだったようだ。
やっと廊下に出れた。小走りでエレベーターに戻る。途中ドアが勝手に開いていたような気がしたがそんな事よりエレベーターだ。
「ええぇーーー!何で動かないの!!」
行きは動いていたエレベーターがボタンを連打してもうんともすんとも言わない。配電盤を確認したが、ご丁寧に鍵が掛けられていた。
「仕方ないな。さっき開いてた所に行くぞ」
ほら、と促されてナツキは渋々エレベーターから離れた。あぁ、もう。面倒くさい。ぷくりと頬を膨らませて、イーサンの後をついて新たな部屋へと入った。
埃っぽさに鼻がむずむずした。あまり使われていない物置部屋のようで、錆び付いた金属ラックに並べられた段ボールや木箱には薄く埃が積もっている。
「これ、オルゴール?」
所々ペンキの剥げたテーブルの隅に花婿と花嫁の飾りがつけられたオルゴールを見つけた。埃っぽい物置の中で綺麗なオルゴールは妙に目立っている。
「何で……これがここに……」
「これイーサンの物なの?」
「……結婚記念に妻の祖母が贈ってくれたオルゴールだ」
イーサンはポケットからゼンマイを取り出して側面の穴に差し込み、回す。綺麗な音色がなり始めるか、と思いきやギギギ、と軋んで音が止まった。どうやらシリンダーの順番がバラバラになってしまっているようだ。
「チッ……面倒な事を……」
聞こえた舌打ちにナツキは苦笑する。あれだけイーサン狙い撃ちの嫌がらせをされたら舌打ちするのも無理もない。ナツキなら壁一枚蹴破るところだ──やらないけど。
かちかちかち、と慣れた手付きでシリンダーの順番を変えて、再度ゼンマイを回した。今度はスムーズに音が鳴る。
「良い音色だね」
オルゴールが美しい旋律を奏で、上部についている新郎新婦がくるくると回る。その音が止まるまで二人は静かに耳を傾けていた。
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