錆び付いた青色の扉を押し開けた。即座に銃を突きつけて部屋をクリアリングをする。書類束や淡く光るパソコン、金属ラックに並べられた薬品類──その奥に隊員が二人、倒れているのが見えた。
「おい、大丈夫か!?」
肩で息をする隊員にクリスが駆け寄る。肩を掴み、安心させるように「今助ける」と声をかけているが、隊員は身体を震わせて首を振った。
「やめろ……もう手遅れだ」
「全員でここから出るんだ」
クリスが言った瞬間、ぴくりとも動かなかったもう一人の隊員が不意に身体を起こした。かちり、とクリスの腕になにかが巻き付いたのが見えて、俺は素早くその隊員に銃を向けて引き金に指を置く。
「おっと、撃つんじゃねぇぞ。そいつの腕を吹っ飛ばされたくなかったらな」
「なっ……!!」
隊員が徐にマスクを外す。その下から現れた顔に俺は声をあげた。痩せ細った顔に少し寂しくなりはじめている毛髪、狂気じみた目をしたその男は俺たちが追っていたルーカス・ベイカーだ。ニヤニヤと笑いながら、手元のスイッチをこれ見よがしに見せびらかしてルーカスは喋る。
「俺の手が滑れば──」
「っ!やめろっ!」
「ドカンだ」
制止も聞かず、ルーカスはスイッチを押した。爆発の衝撃波で身体が吹き飛び、置いてあった台に背中を打ち付ける。
「いいかよく聞けお前ら。ここからさっさと引き上げればテメェらの首が吹っ飛ぶこともねぇ」
四つん這いになりながら、痛みを堪える。倒れたクリスにルーカスがなにやら叫んでいた。良かった──いや、良くはないが、クリスの腕が爆発した訳ではなかったようだ。内心でほ、と少しだけ安堵する。
「それは、お仲間の兵士どもも同じことだ。分かったら……とっとと消えな」
ははは、と笑いながら、ルーカスが奥の扉へと消えた。その瞬間に天井の管から何かが吐き出される。安心するのはまだ早かったみたいだ。耳元で本部のオペレーターがマスクが気密モードになったことを告げてくる。視界端に酸素残量が表示されるのを見て、俺は素早くクリスに駆け寄り、身体を助け起こした。
「クリス、怪我は?」
「あぁ。俺は問題ない……が、」
「……仕方ないよ。それより今は逃げよう」
足元に散らばる赤を見つめるクリスに俺は頭をふり、先を促す。こうしている間にも酸素残量は秒単位で減っている。こんなところで死ぬわけにはいかないのだ。
「くそ……」
悪態を吐き捨てて、腹立たしげにクリスは扉を蹴破るように開けた。その先の部屋も特異菌の胞子は散布されていて、視界が悪い。
E型特異菌。いわゆるカビのB.O.W。ウロボロスウィルスに適合している俺が特異菌に侵されるのかどうかは不明だ。試すつもりもないが。
イライラとした様子でずんずんと先へと進んでいくクリスの背中を慌てて追いかける。悪趣味な実験具が並べられた部屋を二つほど抜けて、ようやっと汚染区域を脱出した。酸素残量が増えるのを確認して、胸を撫で下ろす。
『一度戻って、腕の爆弾を解除しては?』
オペレーターの提案をクリスは時間がない、と却下する。確かにそんなことをしていてはルーカスに逃げられるだろう。立場的にオペレーターもクリスに命令は出来ないため、わかりました、と了承した。
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