- ナノ -


アメリカ・ルイジアナ州ダルヴェイ郡ベイカー邸の上空。ヘリが高度を下げる。いよいよ緊張感の高まるヘリ内で、俺は指先を擦った。

「──下降準備!」

ヘリの両側のドアが開け放たれ、ロープが投げられる。素早く降りていく他の隊員と同じ様に俺もそのロープを掴んだ。この瞬間はいつも心臓がヒヤリとする。ロープがあるとはいえ、それなりに高さがあって視覚的に恐怖が凄い。

きゅっと唇を引き締めて、ヘリの外へと身を投げ出した。ロープを滑り降りて、とん、と地面に着地する。

「うわ……」

辺りは酷い有り様になっていた。立派な建物だったろうベイカー邸は巻き付いていたカビの塊が石灰化して酷い有り様になっている。その建物の脇でクリスが生存者であるイーサン・ウィンターズを保護しているのが見えた。

銃を構えながら、周囲を確認する。

「問題無さそう」

少なくともこの近辺に敵はいなさそうだ。ふ、と息を吐き出して構えを解いた。

別の隊員が鮮やかな手際でイーサンをヘリへと乗せているその姿を俺は手持ちぶさたに眺めつつ、本部と通信をとるクリスのそばに歩み寄る。

「俺たちは引き続きルーカスの捜索?」

「あぁ。着いてきてくれるか?ナツキ」

「勿論」

にっと笑って俺はハンドガンを構えて見せた。

ベイカー邸の調査は他の隊員に任せ、ナツキとクリスはベイカー邸からそう遠くない廃鉱に足を踏み入れた。目標であるルーカス・ベイカーはここに逃げ込んだらしい。鉱山に先行した隊員が三人、通信が途絶している。出来れば生きていてほしいが、こんな状況だ。期待はできないが、最後まで希望は捨てるわけにはいかない。

薄暗い鉱山を点在するライトを頼りに先へと進む。廃鉱といえど、ドラム缶やトロッコの線路は残ったままだ。うねった炭鉱の通路をハンドガンを構えながら先を歩く。

「──!」

曲がり角に見えた影に俺は戸惑いなく引き金を引いた。一発、二発、三発──外すことなく、頭を撃ち抜く。石灰化して砂に変わるそれ──モールデッドを一瞥し、すぐさま周囲に気を配った。

「もうすっかり一人前だな」

その動作を見たクリスがふっと笑う気配がした。ガスマスクのせいで見えないけれど。
昔は事あるごとに盛大な悲鳴を上げていたが、今はちょっとやそっとじゃ驚かない。俺も成長したのだ。

『その先がラボです』

モールデッドを倒しながら、奥へと進んでいると本部から通信が入った。ラボ、つまり研究所。こんな廃鉱で?首をかしげながら疑問を口にする。

「こんなとこで何してたの?」

『まだ詳細は不明ですが、どうやらE型特異菌の培養実験をしていたようです』

本部がすかさず、答えてくれた。ふぅんと相槌を打つ。通信なのに、ついつい首を動かしてしまう。

「行方不明の隊員が巻き込まれていなければいいが……」

クリスの声に憂いが帯びる。確かに研究所にはいい思い出がない。

「……きっと大丈夫だよ。早く行こう」

「あぁ、そうだな」

淡い希望を胸に二人は歩きだした。



prev mokuji next