ふ、と目蓋を押し上げる。見覚えのない鈍色の天井に跳ねるように身体を起こそうとしたが、手足が動かない。
「な、に、これ……」
首をもたげて状況を確認して、呆然とした。実験用の寝台に腕と足がしっかりと固定されている。辛うじて首だけは動かせるが、とても逃げられそうにない。
薄暗い部屋にたった独り。
物音ひとつさえしない静かな部屋で、最低限の光量だけを放つ蛍光灯をぼんやりと眺めた。
思い出すのは気を失う直前まで一緒にいたシェリーとジェイクの事だ。二人は無事だろうか。シモンズは二人を殺すなと言っていたから、即刻殺されたりはしないだろうが安全な訳じゃない。
「……ひとり、だ……」
漏らした言葉は反響することもなく消えた。誰の声も返ってはこない。
たったひとりぽっち。
今までずっと誰かと一緒にいた。クリスにシェバ、レオンとヘレナ、シェリーとジェイク──それからウェスカー。こんな風に独りになるなんて一度もなかった。
「う……ぅあ……」
怖くて、恐ろしくて、寂しくて。
独りを自覚すればするほどに胸が不安で押し潰されそうになる。嗚咽が漏れて、それが泣き声に変わるのにそう時間は掛からなかった。
「ひっく……ふ……ううわぁああああん」
堰を切ったようにぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。涙を拭うこともできず、顔をぐしゃぐしゃにして情けなく泣きわめいた。
誰か、助けて。ひとりは嫌だ。
延々と続くかと思われた泣き声は突然発された警告音にかき消された。設置されている電子機器のモニターが赤く点灯して耳障りな音で異常を知らせている。
「な、なに……?」
泣くのも忘れて呆然としていると、手足を拘束していた金属が小さな音を立てて外れた。
「えぇ……?」
解放されたのはありがたいけれど、理解が追い付かない。戸惑いながら身体を起こし、締め付けられていた手首を擦る。目尻に残っていた水滴を服の裾を乱雑に拭って、ナツキは改めて部屋を見回した。
操作の難しそうな電子機器の並べられたデスクにハンドガンが無造作に置かれている。寝台から降りて、ハンドガンを手に取り残弾を確認した。やや心許ない弾数だが無いよりはマシだ。お守りのように握り締めて、ガンホルダーに収めた。
「よし──」
ぱちんと両頬を叩いて気合いを入れる。
さっきはちょっと弱気になってただけ。もう大丈夫。もう泣いたりしない。
「俺は独りじゃない……待っててくれてるって信じていいよね」
ねぇ、クリス、シェバ──目を閉じて脳裏に二人と過ごした僅かな日々を思い描いた。それから、レオンとヘレナ、シェリーとジェイク……そして最後に金髪の彼を思い出してナツキは小さく笑みを浮かべる。
「ウェスカー……俺、頑張るよ」
勝手にしろ、なんて思い出の中のウェスカーがつっけんどんに吐き捨てた気がした。
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