side:Ethan
村でライカンに襲われていたら、ナツキという青年に助けられた。赤茶髪に赤茶の瞳、穏やかな顔つきの年若い男。
観光──とナツキは言っていたが、明らかに嘘だ。こんなどこかもわからない森の奥の集落に観光なんて。
ちらり、と少し前を歩くナツキを見た。イーサンと出会う前にもライカンと戦闘になったのか、衣服はあちこちが破れ、血で汚れている。不思議なのはその下に傷がない事だ。それに、ファー付きの上着で隠してはいるが武装している。
普通ではない。
だが、悪い人間でもないのだろう。
(とはいえ、信用するのは早計か……)
静かに息を吐き出した。ナツキの思惑はどうあれ、着いてくるのならローズの奪還に協力してもらおう。
「イーサン?」
不意にナツキが振り返った。邪な事を考えていた俺はびく、とする。
「……なんだ?」
「いや、何て言うか……イーサンってさ……何か変な感じがする」
「は?」
唐突に何だ、この男は。
「あっ……悪い意味じゃなくて、何だろう……」
言葉を探すようにうぅんとナツキが首をかしげて唸る。あーでもない、そーでもない。暫く悩んだ末にぱちんとナツキが手を打ちならした。
「わかった!気配が死んでる感じがするんだ!」
「はぁ?」
すっきりした、といわんばかりの顔でうんうんとナツキは一人満足そうにしているが、全く意味が分からない。悪い意味じゃないと言ってたが、普通にディスられている気がするのは俺の気のせいか。
そんなことも気がつかずにのほほんとしているナツキの顔を見ていると、何だか可笑しくて笑いが漏れた。
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