花束を助手席に置いて、俺は鼻歌混じりにハンドルを握る。向かう先は墓地。毎回、ここに来るとあの日を思い出して、苦しくもあり、悲しくもあり、もう二度と悲劇は起こさせないと強く思い返させられる。
路傍に駐車して、花束を抱えて車を降りた。
とある墓の前にキャップを被った少女の姿が見える。入れ違いにならなかったことに安堵しつつ、足音と気配を消して彼女の背後に近づいた。
「やっほー!」
「っ!?ってナツキじゃない。ウザ……」
「う、うざってひっどいなぁ、ローズったらもう……」
軽口を叩きあいながら少女──ローズの傍らに屈む。持っていた花束をすでに白い花が供えられた墓石の前に置いた。そして、静かに手を合わせる。
イーサン。ちゃんと、約束は守っているよ。だから、安心してね──
この下にイーサンは眠ってはいないけれども。黙祷を終えて、ふぅ、と息を吐き出す。
「何それ」
「え?合掌?日本式の墓参りみたいな」
「ふぅん。変なの」
「変なのは無いでしょ、変なのは……」
オブラートに包まないローズの言葉に苦笑いを浮かべる。口の悪さと気の強さがちょいちょいイーサンに似てきた。もう少しくらいおしとやかな方がモテそうなのに。まあローズからしたらそれも余計なお世話だろう。
「で、アンタが来たってことは、仕事?」
「まあ……そういうことに、なります、はい……」
この"仕事"を嫌がっている事は知っているため、言いづらそうに肯定するとローズは面倒そうにため息をついた。
「ホント最悪」
「帰りのバス賃浮いたと思えば──」
「そういうんじゃないでしょ。ナツキってホントバカ」
「ええええぇー……酷くない?酷くない!?」
一方的な暴言を投げつけられながら、墓地から出て路傍に止めた車に二人で乗り込む。助手席に乗り込んだローズは気だるげにドアにもたれ掛かった。
「でもまあ……他の奴が来るよりマシでしょ?」
鍵を差し込んで、エンジンを掛ける。
「…………」
「種類は違えど、同じだしさ……」
お互い不本意とはいえ、ウイルスに適合した人同士だし、分かりあえる所も少なからずはある──
「全然嬉しくない」
──と、思ってたのは俺だけだったらしい。不満そうにぷいと顔を背けられて俺は苦笑しつつ、ハンドルを握り車を発進させた。
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