- ナノ -


イーサンと肩を並べて、ミランダと向き合う。後はミランダを倒し、ローズを取り戻せば全ては終わる。
だが、それが難しい。頭を撃とうが、心臓を貫こうがすぐに再生し、肉体を強化して反撃してくる。さながらゲームのチートキャラだ。こちらは身ひとつしかないってのに。

それに、自分自身はともかくイーサンの方が心配だった。一度死んだからか、ただでさえ薄い気配が残り滓くらいしか感じ取れない。そのまま消えてしまいそうな、そんな──。

(ううん。大丈夫……必ずイーサンと帰るんだ)

自分に言い聞かせるように、心の中で呟いた。汗ばむ手で銃のグリップを握り締めて、ミランダを見据えた。

「ローズを返せ!!」

先に動いたのはイーサンだ。ショットガンを何度も撃ち込みながら、ミランダに詰め寄る。確かに近づいた方が威力はあるが、全身武器のような敵に近づくのは得策ではない。

「イーサン!ダメだ!」

「さぁ、諦めて楽になれ!」

制止は間に合わなかった。足を払われて、イーサンはミランダの目の前で体勢を崩した。

(不味い……!)

ミランダが地面に転がったイーサンに一気に距離を詰め、鋭い菌糸を振り上げる。回避も防御も間に合わないと察して、俺は力一杯地面を蹴ってその間に身を滑り込ませた。

「イーサン!」

尖った触手が脇腹を貫通した。血飛沫が舞う。背後でイーサンが叫ぶのを聞きながら、俺はそのままハンドガンで狙いを定めてトリガーを引いた。

「ぐぬぅ貴様ぁ……!」

確実に急所を貫かれ、ミランダが怯んだ。逃げるようにミランダが祭壇上まで後退する。触手が抜けた脇腹を押さえ、爪先に力を入れて踏ん張った。

ふ、と短い呼吸をして、弾の無くなったハンドガンを投げ捨てる。

「ナツキ!お前……大丈夫か!?」

「俺の事はいいから、ミランダに集中して」

「だが……!お前、傷が……!?」

脇腹を見たイーサンがぎょっとしたように目を見開いた。もうイーサンに隠す必要もないだろう。破れかぶれのシャツを強引に引きちぎり脇腹をさらけ出した。

傷ひとつない脇腹を見て、ミランダが嗤う。

「成る程、貴様も普通ではないという事……お前も、胸を貫かれ生きているウィンターズも"こちら側"ではないか」

「……だから、どうした。こっち側だとか、そっち側だとかそんなの関係ない。大事なのは持ってる力をどう使うかだ!」

何のために使うか。誰のために使うか。家族か、仲間か、自分か──俺はずっと昔から決めてる。口の中に逆流してきた血を吐き出して、ミランダを睨み付けた。

「俺はクリスのために……今はイーサンのために、力を使うんだ!」

地面を蹴り、爆発的な速度でミランダに飛びかかる。赤く煌々と目を光らせて、宙に浮かぶミランダを殴り飛ばした。

「このっ……死ね!!」

空中で羽根を鋭い触手に変えて、攻撃を繰り出してくる。避けきれない。身構えて身体を硬くした瞬間にダン、と銃声が割り込み、触手を弾く。眼下でイーサンが銃を構えているのが見えた。

「俺を忘れるなよ!ミランダ!」

上手いアシストに互いに視線を絡ませて、口角を上げる。

「私の邪魔をするなぁ!!」

落下の勢いを付けてミランダはイーサンに触手を振り被った。上手く転がり避けるイーサンを視界の端で捉えつつ、ナツキはミランダに向けて拳を振り下ろす。

「ぐうぅ……この……!!」

「っ痛ぅ」

攻撃を喰らいながらもミランダが羽根を棘に変形させ、カウンターを繰り出してきた。避けきれずに数本がナツキの身体が突き刺さり、肉を抉る。血を吐き出しながら、抜け出そうと足に力を入れたが、足元から生えた触手に身体を拘束されて叶わなかった。

殺せると確信したのか、ミランダがにやりと口元を歪める。

「逃さぬ。貴様から殺してやる!!死ね!!」

「くそっ……」

触手に縛り上げられて、身動きが取れない。振り上げられた触手に歯を食い縛った。

「そうはさせるか!ローズは必ず取り戻すし、ナツキもお前なんかに殺させないぞ!!」

ダァン──強い銃声が響き、ミランダの顔面を吹き飛ばした。

「ありったけを喰らえ!クソ野郎!!」

イーサンはマグナムの弾を撃ちきる勢いでトリガーを引き続けた。何度も繰り返される銃声と激しいマズルフラッシュに俺は目を閉じる。硝煙の匂いが鼻腔を突き刺した。

「あ"あ"あ"ああぁ!!!」

つんざく悲鳴を上げて、ミランダがよろめいた。触手の拘束が緩み、ナツキはすぐさま抜け出して、ガンホルダーからマグナムをひっ掴み、まだ再生をしようとするミランダに弾丸を撃ち込んだ。


「これで終わりだ!」

「ローズは返してもらう!」


ナツキとイーサンの声が重なった。


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