「俺は祭祀場に行くよ。アルファはミアさんを避難させて」
「だが……」
「ミアさんの話が本当でイーサンが生きてるなら、ひとりでミランダの所に向かってる可能性が高い。なら早く行かないと」
「……わかった。俺もミアを安全圏に避難させ次第向かう。無理はするな」
「了解」
その会話をしたのがおおよそ五分前。
クリスと別れ、ナツキは祭祀場への道のりを走っていた。道を阻むライカンを問答無用で撃ち抜く。アンバーアイズからの方向指示を聞きながら、雪解けでぬかるむ道を必死で突き進む。
ミアから聞いたイーサンの真実。
あぁ、だからか、と納得してしまった。イーサンから感じた死人のような気配は気のせいでは無かったのだ。だからなんだという話だけれども。カビだろうがB.O.W.だろうが、イーサンはイーサンで変わりはない。
姿かたちなんて物は二の次で、大切なのは本質だとナツキは知っている。自分自身が"そう"だから。
『よし、そこを真っ直ぐ進め。祭祀場の上に出る』
「了解。アンバーアイズ、ナビありがとう」
『気を付けろよ。フィーライン』
うん──小さく答えて、道を阻む菌糸の間を潜り抜けた。
アンバーアイズの言う通り進むと、祭祀場を見下ろせる高台に出た。眼下では悪魔のように黒い六枚羽根を生やしたミランダが何かを呟いている。儀式に気を取られて、此方には微塵も気づいていないようだ。
聖杯からローズを掬い上げたミランダの後ろにイーサンが現れた。やはり──生きていた。ミアの想像の通りだった、というわけか。
スコープを覗き、ミランダの米神に狙いを澄ます。呼吸にあわせて、指先に力を入れた。
「今だ!イーサン!ローズを!」
高い銃声が響き、ミランダを射抜く。怯んだ隙にイーサンがミランダの手からローズを奪い取る。が、揉み合いになり再びローズはミランダに奪われ、菌糸の中に隠された。
「そう簡単には取り返せないか……」
低く唸り、ミランダは身体の形状を変形させる。指先は鋭く、長く伸ばし、羽根で飛び回りながらイーサンに攻撃を仕掛けていた。何とか銃で防御をしていたが、攻撃が激しすぎる。そう何発も耐えられそうにない。
ライフルを構え直して、ミランダに再度狙いをつけ発砲した。
「ぬぅ!!小賢しい奴め!!」
丁度振り上げた手の甲を貫かれ、ミランダがよろめき、その隙にイーサンが距離を取る。ミランダを倒す決定打にはならないが、イーサンのフォローが出来るなら充分だ。
「よし」
もう一度──と、スコープを覗こうとしたら、足元から生えた菌糸がナツキの足を払っていた。逃げ場のない高台で足を取られてバランスを崩す。
「おわっ!?」
「ナツキ!?」
視界が回って、手が空を切る。壁の出っ張りに何度か身体をぶつけながら、ナツキは祭祀場の石畳に落ちた。
「いてて……援護射撃に徹するつもりだったのに……」
咄嗟に受け身はとったとはいえ、それなりの高さから落ちてそこかしこをぶつけた。強く打ち付けた膝小僧を擦りつつ、よろよろと立ち上がる。
「へへ……ヒーローは遅れて登場するのが定石だよね、なーんて」
「貴様……ふざけているのか!?」
ミランダが恐ろしい形相で唸った。菌糸で出来た蜘蛛のような脚を背中から生やして宙に浮いている。擬態能力といい、ウロボロスとは違って自由に変形できるのは特異菌の強みだな──と妙に冷静に分析している自分がいた。いつもならクリスが居なきゃ慌てふためいていたのに。
ミランダから目を離さずに手探りでガンホルダーからハンドガンを抜いた。
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