- ナノ -



ロボの放った砲撃で蔓延っていた太い菌糸が崩壊し、地下に続く穴ができていた。深い空洞を覗き、ライトを当てる。
菌糸の湧き具合から見てもこの奥に菌根があるのは間違いないだろう。

「フィーラインと地下へ進入する。お前たちは地上で待機しろ」

クリスからジェスチャーでゴーサインが出たのを見て、ナツキは穴の中に身を落とした。続いてクリスもナツキの隣に降りてくる。

『隊長……村の菌をベイカー邸のサンプルと比較したんですが、E型にあったゲノム編集の痕跡がない。こっちが原種です』

「って事は……」

ナイトハウルからの通信を聞いて、クリスと顔を見合わせる。やはりベイカー邸の事件の元凶はここからだった。あれから三年。やっと決着を付ける事が出来る。クリスの苦労も、報われる。

蟻の巣穴のように地下に伸びる岩洞を進むと大きめの空洞に出た。天井には穴が開き、月の光が差し込んでいる。

その空洞に足を踏み入れた瞬間、今まで身動きひとつしなかった菌糸がうねった。

「菌根を守る番人か!」

「うっそ、でかすぎでしょ!」

絡み付いた菌糸を振り払い、雄叫びを上げるウリアシュに先制でハンドガンを撃ち込んだが防具に弾かれ、効いている様子がない。巨大な棘鉄球の付いた鎚矛を振り上げ、飛び掛かってきたウリアシュを何とか転がるようにして避けた。地面に空いた穴に心臓がヒヤリとする。

「ロボ、少し手こずってる。お前の手を借りたい」

『正気か?そこは地下だぜ?』

「天井が開いている。そこから撃て」

『そっちへ移動する。それまで辛抱してくれ』

クリスの無理な要求に、やや渋々と言った様子でロボは了承した。村内にいるからそう時間はかからないとは思うが、その僅かな時間ですら長く感じる。

図体が大きい分、ウリアシュの動きは緩慢だが、狭いエリアで戦い続けるのは厳しい。振り回される鎚矛が岩洞の壁を荒々しく削った。

「クソっ!キツイな……!」

正面からの攻撃は防具で弾かれる、となると──狙うは背後、だが、この攻撃だ。回り込むのも難しい。跳んでくる砂礫から顔を庇いながら、苦々しげに顔を歪める。

ナツキの反対側に避けたクリスが手榴弾をウリアシュの足元に投げた。

「えぇ、マジで?」

どん、と真下で爆発を喰らったにも関わらず、ウリアシュは少しよろめいただけだった。頑丈にも程がある。

「ロボまだ!?」

『急かすな、フィー。もう着く』

ハンドガンで牽制射撃をしつつ、ロボに向かって叫ぶと、ちょっと煩わしそうに返事をされた。こっちは命の危機だってのに!狭いエリアをうまく立ち回り、ウリアシュの背後に回って、ありったけの銃弾を撃ち込んだ。

──ぐぉおおおお!!

背中から露出した触手部分を狙えば多少はダメージが通るらしい。マガジンを入れ替え、スライドを引く。

『待たせたな、着いたぞ。子猫ちゃん?』

もはや子猫ちゃんとかふざけた名前で呼ばれようが何だっていい。即座にロケーターを取り出して、ウリアシュに向けてレーザーを照射する。

「助かる!まじで助かる!早く撃って!!」

『ったく、人使い荒いんだよ……』

ロケーターの照準が定まるのを待ちきれずにぎゃあぎゃあ騒ぎ立てると五月蝿いぞとナイトハウルから通信が飛んできた。
こっちも必死なんだよ、と返したかったが、ロケーターを照射したまま振り回された鎚矛を避けるので手一杯で何も言えずに終わる。

『捉えた、撃つぞ』

目の前でウリアシュの背中に砲撃が着弾する。鼻先を火薬の匂いが掠め、熱風が頬を撫でた。

「やったか……」

唸り声を上げて、ウリアシュが砕け散り、後には巨大な鎚矛だけが残される。

「……敵性B.O.W.の排除を完了」

完全に砂になったウリアシュを確認して息を吐き出す。頭上の穴を見上げると、ロボがサムズアップしているのが見えて、俺もそれに合図を返した。

「このまま進む。お前たちは地上で待機してろ」

番人を排除したことで道を塞いでいた菌糸が砕けていた。


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