「ところで、あんた、名前は?俺はイーサンだ」
使わなかった薬瓶をリュックサックに仕舞いながら、イーサンが訊ねてきた。そういえばナツキはイーサンを知っているが、向こうはナツキの事を知らないのだ。
「あー……っと、俺はナツキ」
コードネームを言うべきか悩んだ末に、素直に本名を名乗る。妙に間の空いた名乗りにイーサンは不思議そうにしていたが、特に追及はしてこなかった。
「ナツキは……なぜここに?村の人間じゃないだろ?」
「んー…………………………観光?」
「こんなどこかもわからない片田舎に?」
「…………と、友達の故郷だから!」
「なら、連れは?」
「……奴らの襲撃ではぐれちゃって……」
苦しい言い訳を並べたが、最後のは半分本当だ。友達──ではなく、チームメイトだし、一人はお父さんだけれど。
「それは心配だな」
「ううん。大丈夫だと思う。下手したら俺より強いから」
ナイトハウルもケイナインもロボもタンドラもアンバーアイズも元々BSAAの精鋭達だし、俺より場数は多い。それにそれぞれその道のプロだ。隊長のアルファ──クリスも。
「そうか。なら、会えるといいな」
「あぁ、ありがとう。イーサン」
愛娘が拐われて、不安で仕方ないだろうにイーサンは優しい言葉を投げ掛けてくれた。なぜいつもクリスといい、イーサンといい、優しい人がこんな事に巻き込まれてしまうのだろう。
ミア・ウィンターズの生存は絶望的だから、せめてローズだけは何としてでも助け出してあげたい。
「一緒に行動してもいい?二人の方が心強いから……」
「あぁ、構わない。だが、俺といると奴らにもっと襲われるかもしれないぞ?」
「平気だよ。一人でいるよか全然マシ」
せめてもの罪滅ぼし、と言うわけではないが、イーサンくらいは守りたい。へっぽこな俺が出来るのはそれくらいしかない。
「よろしく、イーサン」
「こちらこそ、ナツキ」
手を差し出すと、イーサンは小さく笑って握り返してくれた。
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