- ナノ -



「うぐぁあああああ!!!」

弱点を狙い撃たれたウェスカーが絶叫する。その叫びと呼応するように触手の勢いが増し、それまではまだ人間の腕だった左腕までもが触手に包まれた。

ここまで来るともうウェスカーの顔は人間とは思えないほどに変わりきっていた。目は赤ではなく黄色く発光し、剥がれた皮膚の下はどす黒い色をしている。

どん、と触手を使いウェスカーが跳躍した。行き先はシェバの元。一人分断されたシェバを潰すつもりだ。

「目障りだ!!」

腕を振り回し、シェバに迫る。

「どこへ行っても争い……そして汚染……薄汚い人間、人間、人間……」

すでにウェスカーの怒りはクリスではなく、人間そのものになっていた。何がそんなにウェスカーを追い詰めたのだろうか?口には出さず頭の中でウェスカーに問うた。当然返答なんてないけれど。

ウェスカーから逃げていたシェバの足場が崩れた。ギリギリのところで淵を掴み、溶岩に落下は免れたが自力で上がるのには時間が掛かる上に──ナツキはウェスカーに目を向けた。今にも攻撃に移りそうだ。

(まずい……!)

今狙われたらシェバが死ぬ。
ナツキは素早く銃を構えて叫んだ。

「クリス!シェバの所に行って!俺がウェスカーを引き付ける!」

この距離をハンドガンで狙うのは至難の技かもしれないが、不思議と出来ると直感していた。呼吸に合わせて引き金を引く。ライフル程のダメージは与えられはしないが、それでも着実に弱点を貫いた。

ナツキの狙撃でウェスカーの足が止まる。よし──内心でガッツポーズをしながら、首だけを動かして肩越しに二人を確認した。ちょうどクリスがシェバを救出している最中だ。

向こうは大丈夫そうだな、と安堵してナツキは溶岩を隔てた反対側の崖にいるウェスカーを見上げた。自らが変貌する程の力を手にしてもなおナツキ達一人さえ潰せないことに相当苛立っている様子で、怒りに満ちた瞳がギロリとこちらを睨み付ける。

「傲慢なお前達は裁かれなければならん!」

「黙れ!貴様にそんな事を言う資格は無い!」

噛み付くようにクリスが言い返した。触手を使い、ウェスカーは再び跳躍してナツキ達のいる高台に着地する。

「クリィイイス!!」

憎しみと怒りだけがウェスカーを突き動かしていた。激怒しているウェスカーの動きは単調で弱点を狙うのは簡単だったが、攻撃の一つひとつが重く、少しでも当たれば大ケガは免れない。そんな攻撃を避けながら狙うのは簡単なようで難しかった。

「ウェスカー!」

交互に前後に飛び出す弱点に効率的にダメージを与えるためにナツキは名前を呼び、ウェスカーの気を引いた。ついでに銃を撃てばウェスカーがギロリと此方を振り返る。その隙に背後からクリスが迫り、ショットガンを放った。

「ぐぬぅ……!!」

散弾を弱点で受け止めたウェスカーがたたらを踏む。前面に移動した弱点を確認したナツキは銃を投げ捨て、拳を振り上げた。そして振り下ろす。ぐちゃり、と潰れるような感触と共に生温い液体が跳ねた。

追撃に備えて一旦距離を取り、様子を窺う。大分消耗しているようで膝をつき肩で息をしている。もう後一押しで勝てそうだ。

「シェバ!今だ!!」

ナツキの攻撃でかなり長い間膝をついていたウェスカーにクリスが駆け寄り羽交い締めをして、弱点を覆う触手を荒っぽく剥いだ。

「分かったわ!」

畳み掛けるようにシェバが露出した弱点にナイフを突き立てる。何度も抜いて、刺して──今までの仲間達の仇をとるかのように。最後は両手で柄を掴み、力強く振り下ろす。

俺達の猛攻でもウェスカーは倒れなかった。羽交い締めをしていたクリスを振り払い、シェバを潰そうと触手を纏う太い腕を伸ばす。

「あっ!」

その時だった。ウェスカーの足元が突然崩れた。火山の脆い地盤が激しい戦闘に堪えきれなかったようだ。不意を突かれたウェスカーは逃げる間も無く、溶岩に沈む。

「ぐああああああ!!!」

ウロボロスは火が弱点だ。炎の塊みたいな溶岩に身体を焼かれるのは途轍もない苦痛だろう。

そしてそのまま溶岩に沈み、ウェスカーは見えなくなった。


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