村にたどり着くまでに辺りを飛び回るサンカやライカンに何度か襲われたが、難なく撃退した。傷もすっかり治った。服の穴はそのままだけども。
「ひぃー寒ぅー……」
ようやっと村の入口までたどり着いた。着いたからといって暖かくなる訳でもない。腕を擦りながらそろそろと村の様子を窺う。
ライカンの気配はないが、人気もない。
一応ハウンドウルフ隊はこの辺りの調査をしている筈だからいると思うのだが──。警戒しながら、村へと侵入する。ハンドガンを構えて、一先ず一番手前の家屋のドアを押し開けた。
すきま風が入りそうな木造住宅だ。この感じはアフリカを思い出す。あっちの方はもっと酷かったけど。
「誰もいない、か……」
ライカンに襲われたか、四貴族に実験体にされたか。どちらにせよ、もう村人はいなさそうだ。室内は少し乱れてはいるが生活感がある。数日前までは人がいたのは様子から窺い知れた。
よっこいせ、と年寄り臭い掛け声を出しながらベッドに座り、ポーチから携帯食料を取り出した。こんなときでも腹が減っては戦が出来ぬのだ。
「最近のレーションうまー」
昔のは不味かったらしいけど、最近のは普通に売ってるレトルト食品と同じくらい美味しい。温めれたらなおよしだが、わがままは言うまい。
アオォォーーーン──
暢気に頬張っていると遠吠えが聞こえた。それも結構近場だ。残り少ないレーションをかきこんで、家屋を飛び出した。
ライカンが男に飛びついているのが見えて、俺は即座にライカンに狙いを定める。
タン──
ぎゃん、と犬のような悲鳴を上げて、ライカンが吹き飛び、絶命する。白く石灰化するライカンを最後まで見ずに、大丈夫ですか、と襲われていた男の顔を覗きこんだ。
「イー……っ!」
助け起こした男の顔に、俺は思わず名前を言いかけてすんでのところで止めた。
──イーサン・ウィンターズ。
移送中、襲われて行方が分からなくなっていたのだが、どうやら無事だったらしい。生きていた事に内心でほっと安堵する。これで死んでましたじゃ、クリスに会わせる顔がない──ローズが拐われた時点で会わせる顔なんてどこにもないけど。
中途半端に言葉をつまらせた俺にイーサンが不思議そうな顔をした。
「あー……いや、怪我はない?」
もごもごと言葉を濁し、誤魔化すように訊ねた。イーサンはあぁ、まぁ……と微妙な返事をする。
「…………」
失敗した。どう見ても傷だらけのイーサンにする質問ではなかった。暫しお互いに見つめあい沈黙する。
「あんたは──」
イーサンが何か言おうとした瞬間にまたも遠吠えが聞こえて、緊張が走る。座り込んでいたイーサンも銃を片手に立ち上がった。
複数の唸り声と足音が近づいてくる。
「話は後だな……あんた武器は?」
「ハンドガンがあるから大丈夫。俺の事は心配しないで、自分の身を守ることに集中して」
背中合わせに立ち、肩越しに会話をして銃を構えた。もう敵の気配は近い。耳を済ませ、意識を集中させる。
「そこだっ!」
強くなった殺気の方向に素早く銃口を向けて、引き金を引いた。飛びかかってきたライカンの脳天を撃ち抜き吹き飛ばす。
よし、調子は悪くない。ひとりじゃないから、気持ちに余裕がある。またひとりライカンを撃ち殺しながら、イーサンの様子を横目で伺った。時折くそったれ、と悪態をつきつつも、確実に敵を潰している。クリスが訓練をつけただけあって、手際も良いし、何なら俺より射撃は上手いかもしれない。
左手でポーチからマガジンを取り出し、素早く装填する。
「おい!後ろ!」
「なっ!くっ──」
イーサンの声にハッとして反転したが遅かった。ライカンが飛びかかっているのが見えて、反射的に右腕を盾にする。衝撃にライカンもろとも倒れこんだ。のし掛かる重みに呻きながらも、右腕にかじりつくライカンにニヤリと笑った。義手をいくら噛まれようが痛くも痒くもない。
「右腕のお味はどう?」
左手に握ったコンバットナイフを思い切りライカンの米神に突き刺した。力が緩んだ瞬間にライカンの身体を蹴り飛ばし、即座に銃で止めをさす。
こいつが最後の一体だったようだ。もう辺りに敵性B.O.W.の気配はない。ふ、と息を吐き出して、地面に落ちたコンバットナイフを拾い上げた。
「あんた、大丈夫か!?怪我は……」
「あ、大丈夫だよ」
「やつらに噛まれたんだぞ!そんなはず……!」
制止も聞かず、イーサンが薬瓶を片手にナツキの右腕を掴んだ。破れた上着の隙間から銀色が覗く。それを見つけたイーサンが目を瞬かせた。
「その腕……」
「驚かせてごめん。俺、義手だから怪我はないよ」
だから回復薬は大丈夫。そう笑って、ナツキはイーサンの手元の回復薬を押し返した。
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