- ナノ -
イオリがダンテの事務所"Devil May Cry"に来てから二日。モリソンに頼み込んでお金を前借りしてライフラインは復旧した。今日は朝から二人とも仕事で出ていって留守だ。ダンテ曰く"あまり面白くない"仕事を回されたそうだが、お金を借りている手前断れなかったらしい。
そんな訳で一人事務所に残されたイオリはゴミだらけの住まいを掃除することに決めた。ジュークボックスが激しいヘビィメタルを奏でている。それをBGMにイオリは床に散らばったチラシやら書類やらを集めていた。赤い判子の押された督促状がやたらと目立つ。ダンテは要らないから捨てろと言っていたけれども、本当にいいのだろうか。

(考えるのは後にしとこう……)

売り出し期間の過ぎているチラシや期限切れのクーポンなど明らかに要らないものは纏めて紐で縛り、わからないものは纏めてデスクに置いた。溢れたゴミ箱のごみ袋を取り替えて、その周囲に溢れ落ちたゴミを拾い上げて袋に押し込んだ。ピザの空き箱ばかりが大量に入っている。昨日も一昨日もオリーブ抜きのピザだったし、少々ダンテの食生活が心配だ。

「よいしょ、と……」

パンパンに膨らんだゴミ袋を玄関先に並べ、次は拭き掃除をしようと用意していたバケツから雑巾を取り出した。カウンターやらデスクやら一拭きするだけで雑巾が真っ黒だ。その都度雑巾をバケツの水でもみ洗い、一通り終えたときには昼を過ぎていた。

「ちょっと休憩しよ」

拭いたばかりの革張りのソファに転がり、ブレイクの詩集を開く。短い英文に込められた意味を想像しながら、詩を読むのは楽しい。細やかな幸せを噛み締めて俺は文字の羅列を目で追いかけた。

暫くして、玄関の扉が開いた。ダンテたちが帰ってきたようだ。本を閉じ、身体を起こしながら出迎えの挨拶をする。

「おかえ──」

り。まで言えなかったのは二人の間に流れる空気が吹雪通り越してブリザードに包まれていたからだ。バージルの眉間のシワはいつもより深く刻まれていて、一目見て機嫌が悪いのがわかった。双子の仲の悪さは今に始まった事ではないが、殺し合いを始めそうな殺気にはらはらしてしまう。

「えぇと」

精神衛生に悪い空気をどうにかしようと言葉を探す。

「お、俺、お腹すいたかも」

口に出してから、もうちょっといい言葉を思い付かなかったのかと我ながら呆れた。それでも僅かながらブリザードが止んで、内心で安堵する。

「なら、ピザ頼むか──」

「貴様と一緒にするな。イオリもピザばかりだと飽きる」

「はぁ?」

ブ リ ザ ー ド 再 び。
いつも通りピザ屋に注文しようと電話に手を伸ばしたダンテをバージルが止めた。確かにバージルの言うことも尤もで、一昨日から朝昼夜ずっとピザピザピザ……とピザばかり。飽きるのもそうだが、何より身体に悪そうだ。ギブミー白米と野菜──とそれは置いといて。またもにらみ合い、双子の間に吹き荒れるブリザードに頭を抱えた。

「やるか?」

ダンテは背負っている剣の柄に手をかけて、バージルは腰の刀を握りしめて、室内にも関わらず大喧嘩を始めようとしている。折角掃除をしたのに大暴れされては堪らない。

「ちょっと待っ……」

ぐぎゅるるるる───二人を止めようとして立ち上がりかけた瞬間に胃袋が鳴いた。何ともタイミングの悪い。ダンテとバージルにも届いてしまったらしく、二人分の視線がぐさりと突き刺さる。

「プッ!ははは!なら今日はイオリが食べてぇ物でも食べに行くか!」

「こんな奴と喧嘩している場合ではないな」

おかしそうにダンテは腹を抱えて大笑いだし、バージルもちょっと笑っている。二人の手が武器から離れたのはいいけれども、恥ずかしすぎてイオリは顔を赤くして俯いた。

ピザとブリザード

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