"Devil May Cry"とネオン管で書かれた看板を見上げる
。直訳すると──"悪魔も泣きだす"か。変わった店名だ。
フォルトゥナを離れ、イオリ達はダンテの事務所へと移っていた。電車を乗り継いで、更に乗り継いで。長い間座っていてお尻が痛い。荷物が本一冊だけだったから長距離移動もまだマシだけれど。
ダンテが入口を解錠し、扉を開けた。その後ろをついて、イオリも中へ入る。
「……お邪魔します」
薄暗い室内は少し埃っぽい。長い間戻っていないと言っていたからそのせいだろう。
「ま、当然、電気も水も止まってるわな」
ダンテが壁の電気スイッチを連打していたが、一向に付く様子はない。ため息混じりにダンテは背負っていた剣を壁に立て掛けた。
「……ったく、何で兄貴と一緒に住まねぇといけないんだよ」
ぶつくさと文句を言いながら、ダンテはどかりと物の散らかった木製のデスクに座った。その瞬間にもわりと積もり積もった綿埃が舞い上がる。口許を手で覆い隠して、埃を吸い込むのを防ぐ。あまりの埃っぽさに堪えきれず、イオリは一言ダンテに確認してから換気のために部屋中の窓を開放した。これで少しは湿気った埃混じりの室内もマシになるだろう。
窓から差し込み光である程度見やすくなった室内をぐるりと見回した。ジュークボックスやビリヤード台といった小洒落た調度品が並んでいる。どんな曲が入っているのか気になるが今は電気も水道も差し押さえられているみたいだから、音楽が聞けるのはもう少し先になりそうだ。
「とにかく。お前もここに住むんなら働けよ」
「あ、それは勿論。仕事を探そうと思ってて……」
しかめっ面のダンテにイオリは即座に答えた。家賃の掛からない部屋に住まわせてもらうのだから、元からそのつもりだ。仕事が見つかるまではニートになってしまうが、その辺は多目に見てほしい。
「待て。お前が働く必要はない。それに字が読めないだろう?」
そこに待ったをかけたのはバージルだ。相変わらず眉間にシワを寄せた仏頂面で何を考えているのか分からない。
「や、住まいを提供してもらうのになにもしないなんて申し訳ないじゃないですか!」
家主が言うならともかく。家主が言ったとしてもニートでいるのはイオリの良心が痛む。
「そうだぞ。お前にもモリソン紹介してやるから仕事しろ」
弟に指図されるのは気にくわないらしくバージルはそっぽを向いた。その反応にイオリは苦笑いしつつ、ずっと疑問に思っていた人物について訊ねる。
「前も話題に出てましたけど、そのモリソンさんって誰ですか?」
「あぁ。仲介屋だ。俺は便利屋だからな、仕事を斡旋してもらってんだ」
へぇ。仲介屋、便利屋なんて漫画の世界でしか聞いたことがない。ちょっぴりファンタジーなそれにイオリは目を輝かせた。
「流石にお前に出来る仕事はこねぇからな?」
「あぁ、うん。それは分かってますよ」
そういうのは大体危ない仕事が多いっていうのは漫画で読んだ。
「俺はその辺でいい感じのアルバイト探してくるんで」
そういえば、バージルはどうして字が読めないって思ったんだろう。ふとそんな疑問が頭の中をよぎった。
細やかな疑問