更に数日。イオリの身体はもうすっかり良くなっていた。キリエのお許しも出て、イオリは掃除や洗濯、料理と家事を手伝ったり、買い出しもできるようになった。近所の人とも少しだけだが喋るようになったのもかなりの進歩だと思う。
昼食を終えて、子供たちがいなくなったリビングでネロが口を開いた。
「おい、ダンテ。そろそろ事務所に帰れよ」
「ん〜まあそうだな。モリソンの奴にも連絡しねぇといけねぇし……」
テーブルを挟んで頭上でそんな会話が繰り広げられている。気になって頬を机につけたまま二人に視線を向けた。イオリは成り行き上一緒にいるが、ダンテのこともバージルのこともよく知らない。双子って事くらいだ。
「ビッチ共も淋しがってる頃合いだろうしな」
「事務所奪われてんじゃねぇの?」
「そこは大丈夫だ。モリソンにちゃんと権利書は渡してある」
「あぁ、そうかよ……」
事務所とか。ビッチ共とか。ダンテって一体何の仕事をしているんだろう。色々と邪推してしまうけれども、俺を助けてくれたのだし考えないようにしよう。
しかし、たくさんの子供たちを抱えているキリエの家にいつまでも居続けるのは迷惑なのは間違いない。優しい彼女はきっと大丈夫というと思うが実際問題、食費とか色々大変なのは想像に容易い。そんな彼女の負担になるのは心苦しい。
「イオリ。アンタ、家は?」
「お、俺?俺はえぇと……」
急に話題を振られて、イオリは上体を起こした。この世界にはない。とは言えず、もごもごと答えを濁す。
お金も家もこの世界には無い上に、職もない。幸いイオリの世界に来たブイと同様、言葉は通じる様だし、住み込みで働けるところを探して、働きながらブイを探すのがベストだろう。最悪ホームレスでもいい。
「イオリは俺が面倒を見る」
「「はぁ?」」
「…………へ」
今まで部屋の隅で壁にもたれ掛かって腕を組み、黙っていたバージルが唐突に口を開いた。ダンテとネロにとってもバージルのセリフは予想外だったらしく、目を丸くしていた。俺もきょとりとしてえぇと、と反応に困って頬を掻く。
「そ、そこまでお世話になるつもりは……」
「というか、バージル。お前家もねぇのにこのガキつれ回すつもりかよ」
指摘されて不機嫌そうに眉間にシワを寄せた。否定しないあたり、事実らしい。
「お前の事務所にコイツだけでも寝泊まりさせてやってくれ」
──頼む。
懇願されたダンテは暫し面食らったように硬直していたが、やがて面倒そうにため息をつきながら、「わぁーったよ」と投げやりに返事をしていた。
兄貴の懇願