「"What shall I call thee?
(君の事をどう呼ぼうか?)"」
髪を逆立てた銀髪の男の背に向けて、芝居じみた口調で問いかけた。
「何だ、知っているのか?」
バージルがこちらを振り返った。いつもの気まずさはどこへやら、嬉しそうな雰囲気さえ感じさせる反応は完全に同志を見つけたオタクである。それが面白くて思わず笑みが漏れた。
「ふふ、知識としてあるだけよ。詳しくは知らないわ──それで、V?バージル?」
「好きに呼べ」
「なら……"Joy"」
詩に則ってわざとそう呼ぶと物凄く微妙な顔をされた。バージルには贔屓目に見ても"歓び"なんて名前は似合っていないけれども。
「冗談よ。バージル」
クスクス笑うと、機嫌を損ねたのかそっぽを向かれた。顔に似合わず子供っぽい反応をする。
「…………」
キザで社交的なダンテと違い、バージルは寡黙で内向的な性格、それからちょっぴりコミュ障──というのがここ数日見てきた中での評価だ。Vも寡黙は寡黙だったが、まだ喋る方だったように思う。喧しいグリフォンがそばにいたからかもしれないが。
同じ人間なのに、この違いはなんなのか。興味はあるが、当の本人はエリカと顔を合わせるのも、話すのも嫌ときた。背を向けて沈黙を貫いているバージルに心の中でため息をつく。
「よう。お二人さん」
そんな所へ現れたのはダンテだ。
「……ダンテ」
唸るようにバージルが名前を呼ぶ。弟にだけ即座に反応をするのは遺恨故か、家族だからか。少々妬ける。
「相変わらず、焦れったい奴だな。そうだ、姫様?」
「何かしら」
その呼び方を訂正するのもいい加減面倒臭くなってスルーしている。ダンテが面白がっているのはエリカの反応よりもダンテが絡むとすぐにキレ散らかすバージルの方だろう。後ろで般若の形相を浮かべているバージルが視界に入った。殺気に満ちた目が青白く光っている。
「俺とデートでもどうだ?」
恭しく手を差し出してくるダンテに苦笑を返す。これはエリカをというよりはバージルをからかっている。ダンテの悪知恵に乗せられる辺り、バージルも短慮というか。なんというか──
(バカねぇ……)
知的な顔をしている分、ギャップが凄い。とはいえそれはきっとダンテのみに発動するバカさなのだろうけれど。
今にも閻魔刀を抜いて斬りかかってきそうな雰囲気を醸し出している。この我慢もいつまで続くことやら分からない。この場を納めるためにはどうするべきか、とエリカは思案する。
「遠慮しとく。こんな魔界でデートスポットなんて期待出来そうにないし」
「おっと、そりゃ残念だ」
「……それに、バージルともっと話したいしね」
充満していた殺気が一瞬にして霧散した。分かりやすく機嫌を良くしたバージルが可笑しくて、エリカは口許を緩める。
ダンテがからかいたくなる理由もバージルの反応を見ていると分かる気がした。
ex.3 Infant Joy