- ナノ -
ネロに捕まった後、連れて来られた場所にあったのはクリーム色のキャンピングカーだった。車体の側面には青いネオン管で"Devil May Cry"と記されている。ほら、と促されて中に入ると先程出会った顔色の悪い刺青男──Vと、運転席にはメガネを掛けた色黒の癖っ毛の女性が座っていた。

「よくもチクってくれたわね」

「お!アンタがエリカっていうヤツだな?」

エリカの恨み言に反応したのはV──ではなく、運転席の女性だった。キラッキラとした笑みを浮かべながら、彼女はエリカに詰め寄るとその腕を握ってブンブンと振ってきた。

「あーっと……彼女は?」

勢いに気圧されて、Vへの怒りも矛先を見失い、助けを求めるようにネロへと視線を投げた。

「ニコだ。ニコ・ゴールドスタイン。あ、アンタが、私の父親のみ、右腕だったんだって?」

ネロが口を開く前に彼女──ニコが自己紹介をしてきた。何やら言葉に詰まりながらニコは興奮ぎみにエリカを見つめてくる。言葉の断片から推測するに──ニコはアグナスの娘──?

エリカがその答えを弾き出すのにそう時間は掛からなかった。

「えーっと……何て言うのが正解?」

「あ、あぁ!ち、父親の事なら気にしなくていい。ま、魔剣教団での事はネロに聞いているんだ」

「そ、そう……?」

「そ、それより、アンタの残した研究資料……か、かなり興味深くて、ずっと会ってみたいと思っていたんだ……!あの武器の──」

戸惑うエリカを他所にニコはべらべらと話し出す。その仕草や口調はまさにアグナスとそっくりで、間違いなくニコはアグナスの娘なのだと理解できた。

延々と続きそうなニコのお喋りにエリカは相槌を打つ。魔剣教団時代のエリカの開発品の美しさが素晴らしいだの閃きがすごいだの、ニコはとにかく称賛してくれるのだが、苦い思い出でもあるため掘り返されるのは少々心が痛い。

「──ニコ」

見かねたネロが嗜めるように名前を呼ぶとようやっとニコは話すのを止めた。

「こ、今度私の発明品をみ、見てほしい」

「えぇ、また暇なときにね」

「やった!絶対だぞ!」

ニコの発明品とやらが何かは知らないが、まあ見るくらいなら……と了承するとガッツポーズをして喜ばれた。何だか過大評価されている気がするのだが、大丈夫だろうか?

ニコの暴走が収まった所で、エリカとネロ、Vは向き合った。

「で、何でエリカはここに?」

「あー……飽くなき探求心を埋めるために……?」

「まだ悪魔の研究してんのかよ」

「それは……まあ、うん」

眉をひそめられて、エリカは乾いた笑みを浮かべて視線を反らした。流石に教団の時のような事にはならぬよう気を使っている。

「あんな物が地表に飛び出したんなら、調査する他ないでしょ?」

「まさか、クリフォトに登るつもりじゃないだろうな?」

「そのまさかのつもりなんだけど」

「かぁ〜!命知らずなお嬢さんだな!?なぁ、V」

いつの間にかグリフォンがVの肩口に留まっていた。近くで見るとより、興味深い存在だ。

「ダメだ」

腕を組み、ネロは吐き捨てた。

「何で?」

「危険すぎる。あそこに何がいるか知らないのか?」

「魔王ユリゼン、お前などすぐに消し飛ばされるだろうな」

よもやVにまでそう言われるとは思わなかった。戦闘面に関してはずいぶんと過小評価されている。確かに魔剣教団ではただの技術研究員だったから、仕方のないことかもしれないが、酷い言われようだ。

「貴方達が何て言おうが、私には関係ないわ。他人に研究を止められるなんて嫌だもの」

「おい、お前なぁ……」

「研究になると口で言っても聞かないのネロも知ってるでしょう?」

重苦しいため息をつき、ネロは頭を抱えた。
研究員の意地

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