- ナノ -

剣戟の鋭い音とつんざくような悲鳴の不協和音が延々と続く空間で、エリカはひとり、手頃な大きさの岩に腰かけていた。時間も気にせずぶつかり合う赤と青の色彩に少々呆れつつ、エリカは片肘をつきながらその光景を眺める。

「良く飽きないわねぇ……」

少なくともかれこれ数時間は続いている。正直、眺めているのも飽きてきた。
足元に飛んできたライアットの残骸を爪先でつつきながら、欠伸をひとつ。あぁ、早く終わって欲しい。

ダンテとバージル。魔剣士スパーダの息子で双子であり、永遠の好敵手同士だ。
ダンテが閻魔刀を弾き、一太刀浴びせようとするもバージルは素早く退く。背中を狙ってきた悪魔を切り伏せ、同時に青白く光る幻影剣をダンテに向けて飛ばすもあっさりとかき消された。

一進一退というより、何処までも続く平行線。悪魔が邪魔しようが何しようが互角。いい加減、この喧嘩自体が無意味だと気づいて欲しいものだ。

やれやれ。終わりの見えない喧嘩に嘆息する。

「ほらバージル。姫様が暇そうにしてるぜ?」

「…………」

そんな会話と共に二人の視線が此方に向いた。ヒラヒラと手を振り、暇をアピールしてみる。
ほんの少し気まずげにするバージルとニヤニヤと意地悪そうに口元を上げているダンテ。顔のパーツはほぼほぼ一緒だというのにこうも違って見えるんだなと感心しつつ、「誰が姫様だ」とダンテに突っ込んだ。

二人と会話をしたことで悪魔が此方に気付いて攻撃を仕掛けてきた。重い腰を持ち上げようとしたタイミングで青い一閃が迸る──バージルだ。
エリカの周りにいた悪魔をあっという間に切り捨てた。

「……無事か?」

「あ、うん。ありがとう」

ふい、とすぐに反らされる視線。下りる沈黙──ここんところずっとこんな調子である。
バージルの気持ちもわからなくもないが、こうも露骨な態度だと此方も反応しづらい。

Vが好きだったかと言われるとはっきりとは頷けないが、確かに好意は持っていたわけで。あちらがどう考えていたかどうかは知らないけれども。
そんなVは──ユリゼンと融合してバージルになってしまった。とはいえ、Vとしての記憶が全くないのかといえば、反応を見る限りそうではないようだ。融合して感情面がどう変化したかまではエリカには予想すらできない。

(私のことは……どう思ってるんだろう)

ちらり、と横目でバージルを確認した。一旦喧嘩は止めたらしいが、頑なに此方には向こうとはしない。

もし──バージルが好意を持っていたとしたら、その好意を受け入れるべきなんだろうか。Vはバージルで、バージルはVだ。二人は形は違えど同じ人間だったのだから、後はエリカ自身の気持ち次第なのだろう。

(ん……その場合って)

ふと脳裏に浮かぶのは人間界に一人残してきた知人であるネロの顔。詳しいことは不明だがネロはバージルの子供……らしい。つまりもしもエリカとバージルがそういう仲になったとしたら、ネロはエリカの息子になる訳で。

(それって物凄く複雑では──)

エリカとネロの年齢差は殆どなく、友人としての付き合いをしてきた。それをパピーと結婚したので貴方のママンになりました、なんてブラックジョークにも程がある。キリエにも説明しづらすぎだ。

ぐるぐると考えすぎて、余計に答えを見失った気がする。どうしたものかと悩み、眉間を押さえてため息をついた。

「さっさとヤることヤっちまえよ。すk──」

「──死ね!」

「おっとあぶねぇな!殺るか?」

再び始まった兄弟喧嘩にエリカは答えを出すのはもう少し先になりそうだと遠い目をした。
ex.1 魔界にて

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