- ナノ -
バージルはネロの父親──薄々勘づいてはいた。ただ、確信を持てなかっただけだ。
フォルトゥナでの事件の時、途中から何故かネロを利用する方向に変わって、ネロにもスパーダの血が流れていると知った。ダンテの息子という説もあの時は考えたが、それにしてはどうにもダンテの反応が薄かった。つまり残された可能性は──といった所だ。

「親父……?」

ネロはバージルが父親だとは夢にも思っていなかったのだろう。ひどくショックを受けた表情を浮かべていた。
確かに知らなくてもいい事実だった。バージルが復活しなければ、だが。復活してしまった今、本人の気持ちはどうあれ実の父親を殺させるのは忍びない。

いや、そもそも──

(兄弟同士でも、殺しあって欲しくないんだけど……)

Vの姿を脳裏に描き、エリカは静かに息を吐き出した。俯くネロに気の利いた言葉なんて思い付かなくて、エリカはそそくさとダンテの背中を追いかける。

「あまり驚いてないんだな?」

「予想はしてた。そうなんじゃないかって」

「中々勘がいいな」

「魔剣教団にいたから余計にね」

教団の名前を出すとダンテは納得したように頷いた。太く龍の爪のような鍔をした剣を背に戻して、来た道を戻る。

ユリゼンがバージルに変化した衝撃か、クリフォトは崩壊を始めていた。地響きのような轟音に鼓膜が埋め尽くされる。戻るべく道も崩れた瓦礫に塞がれていた。

「早いとこ、あいつらと合流しねぇとな」

「そうね」

モーターホームにいるニコ達の足場もいずれは崩れる。そうなる前に合流して、逃げるように促さなければ。
相槌を打ち、瓦礫を軽々と飛び越えたダンテに続く。感覚はまだ掴み難いが魔力で足場を作り、瓦礫を何とか飛び越えた。

こんなことを思うのも何だが悪魔になっておいて本当に良かった。ただの人間だったら、瓦礫の山をひとつ越えるのも一苦労だったに違いない。そうなったらダンテがどうにかしてくれただろうけど。顔に似合わずダンテは存外心優しい。だからこそあの時私を見逃したのだろうし、今も時折此方を気にして振り返っている。

まだ崩壊の進んでいない道に出た。かつては敵だったダンテとこうして並んで歩く日が来るとは思いもしなかった。

「ねぇ、ダンテ……どうしても、戦わなくちゃいけないの?」

「……さぁな」

思うところはあるのか、ダンテは言葉を濁しながら目を細めた。
父と息子と

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