- ナノ -
エリカという人間は変人の多い魔剣教団の中でも比較的常識人という印象だった。気のいい明るい性格の彼女はじめじめとした技術局ではかなり浮いていたが、その腕は申し分なく、技術局長のアグナスにも認められていた。

本来ならば技術局員と騎士団員は接点がなく出会うこともなかったのだが、彼女の開発したイクシードシステムの搭載された大剣──レッドクイーンはネロにしか扱えず、必然的に彼女との接触は多くなった。人を見た目で判断するようなタイプではなく、初めて会った時、ネロの銀髪を見ても一切驚いたり、奇異な眼差しで見てこなかったのを覚えている。その人柄の良さからキリエと仲良くなるのもすぐだった。

ネロの扱う銃──ブルーローズも彼女が親身になって協力してくれたお陰で完成したのだ。

そんな彼女が教団のあんなふざけた計画に協力していたのを知ったときのショックは大きかった。ただ悪魔の研究をしたかっただけなのだと、謝罪を重ねていたのがネロの中の彼女の最後の記憶だ。事件後、彼女の姿は教団内にはなかった。ネロはてっきり彼女もまた帰天し、ダンテに殺されたのだとばかり思っていた。

キリエの泣き顔を思い出して、ネロは眉間にシワを寄せる。心優しいキリエを泣かせた罪は重い。生きているというのなら何が何でも探しだして、キリエに謝罪してもらわなければ気が済まない。

乱暴に地を蹴り、高い建物から眼下に見おろす。すぐにその姿は見付かった。ヘルカイナに囲まれた彼女は全く動揺した様子もなく、刀を構えていた。

「見つけた!!」

レッドクイーンを唸らせて、彼女の周りの悪魔を切り伏せた。刀を構えていたエリカはこちらの姿を見てぎょっとしたように目を見開く。そして回れ右。走り出したその背にネロはすかさずデビルブレイカーを伸ばし、足を掴んだ。

びたん、と小気味良い音を立ててエリカは勢いよく顔面から倒れた。

「よう、久しぶり」

あの勢いから察するに痛みは相当の物だろう。悶えるエリカに歩みより、ネロはにやりと笑いながら顔を覗きこんだ。気まずげに視線は反らされる。

「止めるにしたって他の方法なかった?」

目線を合わせないようにしながらエリカは立ち上がって、服の裾を払う。

「ちょっと力加減ミスっただけだ」

「絶対嘘だぁ……」

赤くなった鼻先を擦り、エリカはため息をついている。もう逃げる気は無さそうだとネロは内心で安堵しつつ、口を開いた。

「ここにいる理由は置いといて、俺の所に来てもらうからな」

「ええ?何で?」

「何でも、だ。ったく、こっちは死んだと思ってたってのに……暢気な顔しやがって」

「……それについては……ごめん」

心底申し訳なさそうにエリカは俯いて謝罪する。キリエに言え、と言うとエリカはそうだねと頷き、眉を下げた。

「墓まで作った労力は無駄だったってワケだ」

「あはは……そこまで大切に思ってもらえてるとは思ってなくてさ……いや、本当にキリエには謝らなくちゃ」

エリカの自己肯定の低さはある意味彼女の唯一の欠点だったのをその時ネロは思い出した。
彼女との関係性

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