- ナノ -
深淵を目指して降りた先は悪魔の巣と言っても過言では無いほど、大量の悪魔がいた。血溜まりから悪魔が次から次へとと這い出てくる。

ダンテが率先して悪魔を切り捨てていくその傍らでエリカも同様に刀を片手に戦う。

「強すぎでしょ……」

エリカが必死で倒すライアットも、ダンテはワンパンで落としているし、飛んで跳ねての空中戦は完全に重力を無視していた。
噂は聞いてはいたが、実際にダンテの戦っている姿を見るのはこれが初めてだ。噂以上の戦闘ぶりに驚きを隠せない。

ネロも躍起になっているのか、いつも以上に激しい戦いを繰り広げているし、エリカの仕事は自分に近づいてきた悪魔を数体倒すのと、クリフォトの根を枯らすために血溜まりを潰すくらいしかなかった。

「え──」

三階層ほど下に飛び降りた時だった。がくんと足元が陥没し、重力に身体が引っ張られた。自由落下の心臓の浮く感覚に喉がひきつる。安全装置のついたジェットコースターでさえ嫌いなのに、紐無しバンジーなんて冗談ではない。

恐怖のあまり反射的に何かを掴もうと手を虚空に伸ばす。けれど、掴めるものなんて何もなくて、堪らず目を閉じた私の手を誰かが強く掴んだ。

「無事か?」

「V!」

手を掴んだのはVだった。

片方でグリフォンを掴み、片方でエリカを掴むのは辛いのか、いつもは涼しい顔をしたVの今の表情は苦しげだ。二人とも落ちているのは変わらないが、繋がった手の微かな温もりで安心できた。

「ま、まだ下がある……」

穴は想像以上に深かった。最初は余裕そうにしていたグリフォンもそろそろ限界が近そうな声をあげている。

「んんんぎぃぃ……!流石にふたりは無理……!落っこちまうっての!」

「もう少しだけ耐えろ」

「グ、グリフォン!せめてもうちょっと高度が下がってからにして!」

無理難題を押し付ける二人にグリフォンが悲鳴を上げる。こんな高いところから落とされたら二人とも仲良く潰れたトマトだ。ユリゼンを前に死ぬなんて冗談抜きで笑えない。

「無理だって……いってんだろぉぉぉ!!!?」

「きゃああぁぁぁ!!!アトラ、アルバァ!!?」

ぐんと身体が下に引っ張られて、悲鳴と共に思わず友達の名前を呼んだ。影から飛び出した2匹が壁を蹴り、エリカとVを空中でキャッチするとそのまま壁に爪を立てて速度を落としながら下まで降りてくれた。

地に足着けた瞬間にエリカはへなへなと崩れ落ちた。時間がないのは百も承知だが今だけは休憩をさせてほしい。2匹の身体を抱きしめながら、エリカは気持ちを落ち着かせる。

「死ぬかと思った……」

へたりこむエリカに2匹はぐるぐると鳴いて、細い舌で顔を舐めてきた。どうやら慰めてくれているらしい。
その優しさに泣きそうになりつつ、エリカは自分を叱咤して立ち上がった。いつまでもこうしている訳にもいかない。

「ごめんね。もう大丈夫、ありがとう、V」

何も言わずに待ってくれていたVに感謝すると、ふいとそっぽを向かれた。

「……お前に怪我がないなら、それでいい」

「!──うん。ありがとう」

背を向けたのは照れ隠しなのだと、その一言で理解した。
落下注意報

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