一悶着はあったが、ようやっとクリフォトの近くまで来れた。いまや天を貫くほどまでに成長した魔樹は紫色の霧を纏いながら不気味な光を放っている。
「やっとここまで来たな」
「ほんっと、最悪だわ」
「んだよ、機嫌直せって……」
先程の一件でエリカの機嫌は頗る悪かった。諸悪の根元は悪びれもせずにへらへらしているのが腹が立つ。ぷくりと頬を膨らませて、そっぽを向くとVがどこか遠くを見つめているのに気が付いた。
「V?どうかした?」
「この街はこうなる前にも悪魔に襲われたことがある」
脈絡なくVは話し始めた。「それで」と、ネロが続きを促す。
「俺はその時、この場所にいたんだ。……ここが俺の遊び場でね」
所々が錆びた緑色の木馬に触れ懐かしそうに目を細める。Vの身の上話を聞くのはこれが初めてだ。まさかレッドグレイブがVの故郷だったとは。
「……俺の家だ」
指し示した先には赤い屋根の家があった。クリフォトにより半壊してはいたが、家としての形は残っている。あれが──Vの家?
「ここで別れよう。先に行け」
「Vは?」
「俺は魔剣スパーダを探す」
故郷ならば色々と思うところもあるのか──と思ったら、そうでもなかった。
「はあ?あんなもん必要ねぇよ」
「俺も昔はそう思った。だが勝つためには最善を尽くすべきだ」
"俺も昔は"とは。含みのある言い回しにエリカは首を傾げる。
本当にVは何者なのだろう。スパーダの血族──?いいや、スパーダには双子のダンテとバージルしかいなかったはずだ。双子の息子の可能性もなくはないが。
顎に手を当てて考え込んだが、すっきりとする答えは見つかりそうになかった。
「どういうことだ?」
ネロも同じことを考えていたらしい。
二人の疑問の答えを持つVはすでに此方に背を向けて歩き出していた。
鋭いブレーキ音を響かせながら、斜面を勢い良く滑り降りてきたキャンピングカーに、エリカは思わず悲鳴を上げてネロの後ろに隠れた。
「いいタイミング。相棒っぽい」
「……信じらんない」
結果として車は目の前できっちり停まった訳だが、これに一切動じないネロの肝の据わり方はおかしい。胸を押さえながら、絶句した。そんなエリカを他所に二人は他愛ない会話を交わして笑っている。これは私がおかしいのだろうか……と一瞬自分の感覚を疑ってしまった。
「さっさと乗りな」
ニコに促されるまま、ネロと共に車へ乗り込んだ。
「「死ぬかと思った……」」
ニコと台詞が珍しく被っていて、おかしいのはネロだけだったと気づいた。
故郷と疑問