- ナノ -
「あぁ、もう!」

これで刀を弾かれるのは何度目か。スクードアンジェロの持つ大盾に攻撃を阻まれて、エリカはうんざりとする。身の丈程の盾は背の低いエリカにとってはもはや壁だ。

それに戦いが始まってから建物ごと足場が滑り出し、行く先も見えぬままだ。そんな足場で戦うのはリスクが高すぎる。早く倒さねばならないのに、スクードアンジェロの硬さときたら。
パワーで押しきれる程力もなく、背後に回ろうにもスピードも凡人並みのエリカには少々荷が重い。苦戦しているエリカを見かねてか、Vに肩を引かれて下がらされた。

「下がっていろ」

ぱちん、と指を鳴らす音がして──

「ひえっ」

アンジェロ達が落ちてきたときよりも更に大きな音を立てて、巨大な物体が隕石のごとく目の前に降ってきた。泥を塗り固めたようなその巨大な物体はゆっくりと身体を起こし、太く重たい腕でスクードアンジェロを凪ぎ払う。あんなにも邪魔だった大盾も圧倒的な力の前では意味をなさない。

「すごい……何あれ……」

あっという間にスクードアンジェロを屠ってしまった。グリフォンやシャドウ以外にもこんな手札を隠していたとは。

「ナイトメアだ」

「って、V、髪が……」

巨大な泥人形の名前を教えてくれたVの髪は真っ白になっている。身体中を埋め尽くしていたタトゥーも今は消えていた。原理は不明だが、グリフォン達の出入りに合わせてタトゥーも変化するらしい。とても興味深い。

ふ、と短い息を吐き出したVの横顔に微かに疲労が見えて、思わずその背に手を添えた。

「大丈夫?」

「これくらいならば問題ない」

なら良いのだけど、と返事をしたところで、Vの髪が元の黒色に戻る。ナイトメアへ視線を向けるとちょうど溶けるように消えていくところだった。

「消えろ!!」

ネロの一閃がプロトアンジェロに決まり、悪魔の気配は消えた。

滑り続ける足場の進行方向に大穴が見えた。即刻ここから脱出しなければ建物ごと滑落死してしまう。
早く逃げよう、と二人に声をかけようと振り返った瞬間、腰元に腕が回された。無機質で冷たいそれはネロのデビルブレイカーだ。

「──っ!?」

「飛ぶぜ」

言葉よりも先に足が地面から離れていた。目まぐるしく変わる風景、やかましいくらいの風切り音──悲鳴すらも上げられなかった。
時間にすればほんの10秒にも満たない。けれど、エリカにとっては永遠に終わらないかと思うほどの恐怖だった。間違いなく精神的に一回死んだ。

「……死ね!」

地に足着けた瞬間にネロに拳を振り上げた私は決して悪くない。
悪夢のごとく

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