- ナノ -
地下鉄構内をエリカとネロ、Vでそれぞれ進んでいた。地上よりはマシとはいえ、地下鉄の方もクリフォトの根による破壊が進行しており、精々一駅先くらいまで行くのがやっとだった。

クロゼットのような形をした悪魔を延々と産み出し続ける肉の塊には心底うんざりした。倒しても倒しても悪魔が減らない理由のひとつがわかった気がする。きっちり叩き潰し、道中の悪魔も取り零しなく倒してエリカとネロは地下鉄を出た。

目映い光に目を庇う。その中央に空まで伸びるクリフォトさえ無ければ、良い天気だ。日も出てないくらい朝早くにここに来たのだが、もう太陽は高い位置にあった。正確な時間は定かではないが、エリカの体内時計によれば恐らく──10時頃だろう。

「エリカ、行くぞ」

ネロに呼ばれて、相槌を打ちながら小走りで向かう。その頭上でピロバットが数匹通り越していったが、運良く気付かれなかった。

クリフォトに近づくに連れて、街は崩壊し、魔界化が進んでいてかなり酷い有り様になっていた。劇場として使われていたのだろう建物は貫通し、随分と風通しの良いものになっている。その建物の前にVの姿を見つけて、ネロを追い越して駆け寄った。

「Vの方が速かったのね」

「エリカちゃんは遅かったなァ!待ちくたびれちまったぜ!」

「……今到着したところだ」

この場合Vの方が正しいと見ていいだろう。息を吐くように嘘をつくグリフォンをじろりと睨んだ。油断も隙もない鳥である。嘘のレベルは大したことはないけれども。

「クリフォトはもうすぐだ。さっさと行くぜ」

ネロに促されて、劇場の中へと足を踏み入れた。中では青色に怪しく燃える篝火が幾つかぼんやりと明かりを放っている。明らかに魔界の物だ。駆け寄り素材を採取しようと手を伸ばした。

「……あれは」

すぐそばでずしんと重い音が響き、伸ばしかけた手を引っ込める。人の形をした悪魔が数体降りてきていた。どうやら待ち伏せされていたようだ。どこぞで見たような外見の悪魔にネロが指をさしてニヤリと笑う。

「前にもこんなのいたな」

甲冑の様な外皮に紫の大剣。それにマント──アンジェロタイプの悪魔だ。嫌でもフォルトゥナの事件が脳裏を過り、エリカは内心でひっそりと嘆いた。

「……目障りだ。粉々にしてやる」

眉間を押さえながら、唸るような低いVの声にエリカは目を丸くする。珍しく苛立っているらしく、表情は険しい。あの悪魔に何らかの因縁でもあるのだろうか?

不思議に思いつつも、エリカも加勢すべく刀を握り二人の隣に並んだ。

「同じコト思ってたぜ」

不敵に笑い、ネロもレッドクイーンに手をかけた。

駆け抜けろ!

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