「なるほど……時空を歪めるのね」
騎士の悪魔──エルダーゲリュオンナイトの動きを暫く観察していたが、どうやらこの悪魔の能力は時間を歪める能力のようだ。空間は限定的だが、一定時間範囲内の生物の動きを鈍らせ、そこを狙うという厄介な敵にVは案の定苦戦していた。
それでも何とか攻撃を避け続けているが、攻撃を受けるのも時間の問題だろう。「邪魔だ」と言われたから下がっていたが、正直切っ先が掠めるギリギリで避けているVを見ていると肝が冷える。
「──っく!!」
シャドウが剣で切り裂かれ、Vが疲労からか体勢を崩した。丁度グリフォンもVから、離れていて回避には間に合わない位置だ。
思考するよりも先にエリカは駆け出していた。この場にいる誰よりも速く、エリカはVの前に滑り込み、振り下ろされた剣を刀で弾き飛ばした。
キィン──鋭い音が鼓膜に反響する。無理に攻撃を防いだせいで指先が痺れた。
「アトラ、アルバ!」
咆哮と共にアトラとアルバが悪魔に飛びかかる。2匹の猛攻に悪魔が気をとられている内にVの腕を引っ付かんで立ち上がらせた。
「怪我、ない?」
「あぁ……大丈夫だ」
「なら良かった」
Vの返事を聞いて安堵する。だが、まだ戦いが終わった訳ではない。アトラとアルバを振り払い、悪魔は攻撃体勢に入っている。
「さ、第2ラウンドと行きましょうか」
指先の痺れを誤魔化すように、エリカは力強く刀を振った。
一進一退の攻防戦。ほんの僅かに此方が押している。アトラを踏み台にして高く飛び上がり、重力に任せて刀を脳天めがけて振り下ろした。
「硬っ!?」
模造品とはいえ大抵の悪魔は斬れる筈の刀を弾かれて、エリカは空中で姿勢を崩す。無防備になったエリカを悪魔が見逃すはずもない。鋭い切っ先が此方を目掛けて一直線に迫る。無意識に呼吸を忘れて、歯を食い縛った。
「──ひぇっ!?」
貫かれる寸前に何かに両肩を掴まれて身体が急上昇する。剣が鼻先を掠めて、心臓が凍りついた。
「おっと!そうはさせねェってなァ!アブねぇとこだ!間一髪って奴?」
調子のいい声が頭上から聞こえた。それに言葉を返す余裕もなく、エリカはされるがままに運ばれる。グリフォンは軽々とエリカを敵から離れた場所に運ぶと、旋回して再び悪魔に突っ込んでいった。
助けてもらわなければ間違いなく殺られていた。未だにバクバクと激しく鼓動する胸を押さえる。
「借りは返したぞ」
貸しだの借りだのそんなの全く気にしていなかったのだが、今回は助かった。
「ありがとう、V」
ふいと顔を反らされる。感謝の言葉くらい受け取ってくれればいいものを。全く素直じゃない。
「次はない。気をつけろ」
「ふふ……了解!」
背を向けてはいたが、その声色は優しくて私はくすりと笑った。
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