- ナノ -
クリフォトの根が開けた穴から地上へと這い上がった。清々しいとは言えないが少なくとも悪臭がしないだけマシだ。深呼吸をして肺の中の空気を入れ換えた。余程の緊急事態じゃない限りは、二度と下水道なんかに入りたくない。

両腕をぐいっと上に伸ばして、辺りを見回した。建物は悉く倒壊し、道は根の影響で隆起して道として機能していない。人だった物をちょん、と指先でつつくとあっという間に塵になって崩れた。一体何人が犠牲になったのかはわからない。が、あの樹の成長具合を見るに相当数はいるだろう。

「……ユリゼンとやらを倒すのは私の仕事じゃない」

そういうのはデビルハンターの仕事だ。専門に任せておいて、エリカは自分の研究者としての仕事をすればいい。ひとりごちてから、エリカはアーチの建物のそばで何かを見つけたらしいVに駆け寄った。

人差し指を口許に当てて、静かに、と目配せしてきたVに、エリカはアーチの向こうに何がいるのかと首を伸ばした。

「あれは──」

三つ首の女の悪魔が、馬に乗った騎士のような悪魔に何やら命令をしている。何気に悪魔の世界も縦社会らしい。強ければ上に立てる実力主義な分、悪魔界の方が少しは生きやすいかもしれない。

「魔剣スパーダを探せ。貴様なら在処がわかる。あの方は"捨て置け"と。だが、私は気がかりだ」

三つ首の女の悪魔──マルファスは探して破壊せよと言い残して魔界へと戻っていった。後に残ったのは騎士の悪魔だ。

「あれ、倒すの?中々骨が折れそうだけど」

エリカを無視して、Vは悪魔のいる広場へ足を踏み入れ、こつりと杖を鳴らした。どうやら戦うつもりらしい。エリカも小走りでその後を追いかけて、悪魔と向き合った。

「なるほど……正体が読めた。ならば……手心が必要か」

ぼそり。意味ありげな呟きをひとつ。どういうこと、と尋ねる暇もなく、Vはグリフォンとシャドウを出現させ戦闘を開始した。

「えーと……」

完全に置いてきぼりである。これは戦闘に参加すべきなのだろうかと悩みながら頬を掻いた。

「邪魔だ。下がっていろ」

「あ、はい」

やっぱり戦うべきだ、と思って一歩踏み出した瞬間に杖が目の前に伸びてきて、そんな一言。流石にちょっと頬が引きつったが、何とか笑顔を貼り付けたのを誰か誉めてほしい。

仕方なく、エリカは広場の端のなるべく邪魔にならないだろう場所へ移動した。


一難去ってまた一難

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