- ナノ -
悪臭の立ち込める下水道を黙々と歩く。Vはネロと違い、お喋りなタイプで無いことは見た目からして分かっていたが、何とも味気ない。こういうときに悪魔でも出てきてくれればいいのに──なんて考えているとすっと目の前に杖が伸ばされた。足を止めて、Vを見ると険しい顔をしている。

「下がっていろ」

その言葉を合図に悪魔が現れた。エンプーサやヘルカイナ──弱いのに相変わらず数だけは多い連中ばかりだ。

「行け」

たった一言。Vの影から黒豹が飛び出して、悪魔に飛びかかった。身体をトゲに変形させて戦う黒豹にエリカは目を丸くする。

「わぁお!名前、何て言うの?」

「シャドウだ」

エリカが使役する2匹とはまた違う動きをする黒豹──シャドウに目を輝かせる。Vさえ良ければ、是非とも解体してその生態を確認したいものだ。

「俺も忘れんなよォ!」

口から紫電を帯びた球体を吐き出して、グリフォンが存在を主張する。

「グリフォンもスゴいのね!」

「へへへ!見てろよ、エリカちゃん!こんな悪魔くらい丸焼きにしてやっからよ!」

煽てると面白いほどに調子に乗って、雷を起こして敵を焼きつくしていた。成る程グリフォンは雷属性──と。雷を発生させる器官はどこか、あの羽毛は雷を防げるのか──実に研究者としての血が騒ぐ。顎に手を当てて、ニヤリと笑っているとVが駆け出した。そして怯んでふらふらになった悪魔に持っていた鋭い杖先を突き刺して止めを刺す。

「…………ふぅん?」

どうやらシャドウもグリフォンも悪魔に止めを刺せないらしい。何とも不思議だ。悪魔が暴走して別の悪魔を殺すことも良くある事だ。つまり彼らは普通の悪魔ではない──今までの研究から推測して、エリカは答えを弾きだす。

そんな彼らを従えたVもまた、普通の人間ではないのだろう。

「私の出る幕もなかったね」

「出る幕って言うけど戦えんのォ?エリカちゃんよォ」

「こう見えても戦えますぅー!」

明らかにバカにした口調のグリフォンにエリカはすかさず噛みついた。ネロといい、Vといい、私が戦えないと思い込みすぎだ。研究員は戦えない、なんて事はない。上司のアグナスだって──悪魔の力を使っていたとはいえ──戦えていたのだから。

「嘘つくなよ、エリカちゃん」

「羽根むしって解体するわよ、グリフォン」

信じないグリフォンを掴んでやろうと手を伸ばしたが、高いところに逃げられてしまった。
下水道の一齣

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