- ナノ -

あの双子が突然家に転がり込んできてはや三日。
仕事も手伝わずにネロとキリエの自宅でグータラしている赤コートのおっさんには怒りすら覚える。そもそもダンテには自宅があるのだからさっさと帰れと怒ったのだが、"アレ"が気になるから却下と切り捨てられた。

"アレ"──とはバージルの事だ。もうずっと倒れていた男─イオリと言うらしい─に付きっきりで殆ど部屋から出てこない。つい数ヵ月前に都市ひとつを巻き込んだ魔王とは思えない献身ぶりである。
ネロの中のバージルはもっと傍若無人で無神経でムカつく奴だった。自身の実の親父ではあるが、ぶっちゃけてしまえば血の繋がりがあるだけで親父と思ったことすらない。数ヵ月前が初対面だったのだから当然といえば当然だ。バージル自身もネロの事を息子とはあまり思って居なさそうだったし、それに対してそこまでの不都合はないしどうでもいい。とはいえ、バージルと顔を合わせるのは何とも気まずいのだが。

「はー……マジで何なんだよ」

あの喧しいニコも暫く地元に帰っていて、静かにキリエと過ごせると思った矢先のこれだ。あぁ、全く。どうしてこうも問題は転がり込んでくるのか。
悪態をつきながら、落ちてきた乱暴に前髪を掻きあげた。

「おい、替えの水持ってきたぞ」

「……」

(こんのクソ親父、返事すらしやがらねぇ……)

うんともすんとも言わず、視線さえもこちらに寄越さないバージルに米神がひくついた。病人がいる手前、ムカつきを堪えてサイドテーブルに大股で歩みより温くなった水の入った桶を取り替える。その隙にベッドで眠る男を盗み見た。ここに来た当初よりかは顔色は大分良くなっているし、呼吸も安定している。目を覚ますのももうじきだろう。

「今日こそは目ぇ覚ますといいな」

それだけ言って桶を片手に部屋を出る。最後までバージルは無言を貫いていたが。

(本当に何なんだよ)

あのイオリという男も。バージルも。ずっと手を握り締めて目を覚ますのを待っているなんて恋人同士くらいだ。しかもあのバージルの横顔は──

(完全にそうだったよな……)
息子の憂鬱

prev next