今日で丁度彼が来てから一週間。公休日のため有給に続いて今日も休みだ。明日出社したら仕事が山積みなんだろうな、と思うとちょっぴり気が重い。もっと休みたい。
身体を起こし、ぐっと伸びをする。凝った肩が小気味良い音を立てた。ブイが朝食を用意してくれているらしく、良い匂いが此方まで届いている。待ちきれないとばかりに鳴るお腹を擦りながら、自室を出てリビングに行く。
「おはよう、ブイ──ブイ?」
いつもなら返ってくる筈の答えが聞こえない。それどころか人の気配すら、ない。
リビングのテーブルには二人分の朝食が並んでいる。まだ湯気が立っていて作りたてなのは見てとれた。ただそこにいる筈の人間がいないだけでそれ以外はいつも通りだ。
キッチンを覗いた。ブイの姿はない。だが、ブイが調理に使ったらしいフライパンや皿がシンクに置かれている。回りっぱなしの換気扇の音だけがやけに大きく聞こえた。
洗面所、風呂、物置、ベランダ、自室、玄関──どこを覗いてもいない。何ならクローゼットの中まで確認したのにグリフォンもシャドウも、皆いない。
リビングに戻り、崩れるようにソファに座った。
「はは……」
乾いた笑いが漏れた。溢れそうになるものを塞き止めるように顔を両手で覆う。
分かっていた。いずれこういう日が来ると。ただ想像よりも早すぎて、受け止めれないだけだ。
俺が昨日あんなことを思ったから?
「うぅ……」
たった一週間。されど一週間。ブイと過ごした日々は夢だと思うにはあまりにも鮮烈に記憶に刻まれていて。けれど、それを証明する物は何もない。
ブイの服も、グリフォンの羽根の一枚も、シャドウの抜け毛の一本でさえ残されていない──いや、ひとつだけ残っていた。テーブルの端に置いてある"V"と書かれたブレイクの詩集。それだけがブイのいた証だった。
それを大事に抱き締めて、イオリは大きく息を吐き出した。
「ブイ、さよなら……」
独りで食べる朝食はいつもよりしょっぱかった。
七日目。